この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




大人のキス
2015-11-15 09:12:21
テーマ:クロネコ物語




昼間の二人は
それぞれ
学生らしく勉強したり
趣味の読書をしたり
静かに過ごしている。




サガさんは
ソファに
横向きに掛けて

組んだ左足と
本を持つ左腕に
仔猫を包んでいる。




仔猫は
サガさんの左腕に抱かれ
その胸に背を預けて
曲げた膝にタブレットを載せて
丸まっている。




絡まり合う二人は
恋人同士にしか見えない。




ハウスキーパーさん
来るんだけど
どうするかな?



『2時だ。
   お前は部屋で勉強してろ。』


サガさんは本を置き、
仔猫を促す。






「え?
どうして?」

仔猫は
特等席で
微動だにしない。





狼はタブレットを取り上げて
言い聞かせる。

『ハウスキーパーが来る。
来てから焦って離れるのも
悲しいものだぞ。』




振り向いた仔猫は
狼の胸に抱きついてねばる。

「僕、
  見られたって平気だよ。
   もう恋人になるって決めたもん。」





胸からひっぺがして
宣言する。

『俺は決めてない。』




ジワッと目を潤ませて
反撃する。 

「サガさんも僕が好きって
    言ったじゃない。」




狼は
仔猫の両肩を抱き、
じっとその顔を見て待つ。



「…………………………ごめんなさい。」



『よし!
   時間は4時までだ。
   部屋に行け。』


「…………はい。」


以上が前半戦ね。






キーパーさんの仕事が終わり、
二人だけに戻る。



サガさん、
そこ居ないわよ。

彼の自室には
仕上げた課題だけ
机に揃えて置かれている。





寝室。
ベッドに向こう向きに
仔猫が寝ている。
振り向かない。



強情になっちゃって。




サガさんは
ベッドに腰掛けた。




「……課題はやったよ。」


仔猫の頭を撫でながら
探りを入れる。

『見た。
  ……拗ねてるのか?』




仔猫は顔を上げない。

「なぜ離れてなきゃダメなの?」




狼は落ち着いて応じる。

『誤解される。』


「どんな誤解?」


『お前は俺のものじゃない。』




時間が流れる。
狼は静かに待っている。



ムクッと彼が身を起こす。

………………豹?



「僕、サガさんのものだ。」

半身を起こし、

すがるでなく
目を逸らすでなく
サガさんに狙いを定めた目。




『大人の意味では違う。』 

サガさんが
すっと彼を抱き寄せる。



え?
と戸惑う彼に
真上からサガさんは言った。

『教えてやる』







…………長いキスが始まった。



深々と食い込む牙に
仔猫は、
喘ぐような
一瞬の呼吸を繰り返す。



数回の痙攣を終え
狼の牙が
ゆっくりと離れる。



仔猫は
狼の胸に
しんと静まっている。




部屋は夕闇に色を失っていく。
二人は薄闇の中に
切り絵のシルエットになったみたい。




「……ごめんなさい。」

仔猫が囁く。

「ごめんなさい。
  辛いことさせて……ごめんなさい。」





狼が応える。

『怖がらせた。

   許してくれるか?』




仔猫はそっと伸び上がり
狼の唇に唇を押し当てた。

「サガさんが泣いてた。
   僕にキスしながら
    泣いてた。

   僕、
   ちゃんとわかった。
    サガさんの気持ちが
    わかった。

    ごめんなさい。
    もう無理は言わない。
    ちゃんと待ってる。

     サガさんが
     だいじょうぶって思うまで
     ちゃんと待ってる。」

サガさんが仔猫の額にキスをして、
とりあえずは
なんとか終わったわね。

あぶないったら
ありゃしない。

もう夕食タイムよ。
サガさん、
巻きでいかないと
仔猫が飢えちゃうわよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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