この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





入院とあの人たち
2015-11-13 19:43:29
テーマ:クロネコ物語




まあ、
最初は
「お腹いたい……あれ?治った。」で、
とりあえず寝たの……よ。




一気に加速したのが早朝。
「サガ……さん」
と仔猫が呻き
狼は飛び起きる。




ドタバタの最後は、
白い服の人たちが
どやどやと部屋に入り
出て行った。




ほんの一瞬
彼の顔が
毛布の間に覗いた。
紙のように真っ白……てこういうこと?




サガさんは
揃えてある入院セットを肩にかけていた。




その夜はひたすら待ったわ。
飢え死にするかと思った。




深夜、
サガさんは戻り、
駆け寄った私に
『すまん』
と言って
御馳走ネコ缶を出してくれた。




気付いたら
姿はなくて
倒れたままの姿で
ベッドに寝ていた。




翌朝、
サガさんは
電話をしていた。




『手術に関する書類は急を要します。  
   …………

    今すぐファックス願います。
   はい。……はい……。
   郵送もお願いいたします。
   はい……はい……。
   スケジュールですか。

   手術を終えないと…………。

   ………………わかっています。

   申し訳ありません。
   私の不注意です。


   …………我慢していたようです。
   ……………………申し訳ありませんでした。
   全力を尽くします。

   ………………術後の診断が出たら、
   連絡いたします。


    書類、
    くれぐれもよろしくお願いいたします。』




サガさんは
受話器を置くなり
ボードの上にあるものを
薙ぎ払った。



受話器は吹っ飛んで壁に当り落ちた。




一瞬の衝撃音の後、
シーンとした居間に
カランカランと転がるのは
彼の筆立てだ。




サガさんは
ボードに両手を突いて
肩で息をしている。




サガさんの携帯が鳴る。
飛び付くように出るサガさん。
パッと顔が明るくなる。




最敬礼してる。

『I,ll go soon!』




あ、待って!!
ニャー!!!



『おっと
   エサだよな。
   あいつが気にしてた。
    当分は御馳走缶にしとくぞ。』




まあ
嬉しい。




サガさんは
私にたっぷりのご飯を出して
手早くさっきの狼藉の惨状を片付ける。



最後に筆立てを拾い
額に押し当てて
目を閉じる。




で、
つむじ風のように飛び出して行ったわ。
あなた………………何時間寝た?




それから
サガさんは午前5時に家を出て
午後10時に帰宅する毎日になったわ。




帰宅するとキッチンにこもり
何か作っては
それをもって出掛けるの。
彼のとこね、きっと。




カチッ ガチャ




毛布に包まれて
彼が戻ってきたわ。



サガさんの腕の中で
彼は深く息を吸い
静かに吐いた。




「もう病院はやだな。」

久しぶりのソファに
狼と仔猫は
寄り添い
互いの息遣いを
確かめ合っているみたい。




サガさんは
仔猫を膝に抱き
その
柔らかな頬に頬を寄せ
そっと謝る。




『苦しかったろう。

   気付いてやれず
   すまなかった。』



「僕がいけないんだ。
   すぐに
   言わなくて
   ごめんなさい。」



仔猫は
ますます細くなった腕を差し伸べ
狼の頸に巻き付ける。




毛布が肩から落ちて
ブカブカのパジャマ姿が 現れた。



ハッとする。

なんて細くなったんだろう。





仔猫を抱くサガさんの目が
キラッと陽をはじく。

ん?
涙かしら。




仔猫は急性虫垂炎。
絶対痛かったはずなんだから
サガさんは反省ね。




「……僕、どのくらいで練習できるかな?」

『散らすより切る。

   間に合うから今にしたんだ。』




自分の手を見ながら

「脚もね、筋肉落ちちゃった。
あの人たち
怒ってた?」


ときた。


仔猫は気にしている。




「僕、
   試合に出られなくても
   お金振り込まれるのかな?

   練習、
   すごくお金かかるんだ。」



『振り込まれる。
   怪我や病気くらい想定内だ。

   第一、身元保証人も
   組織で
   引き受けての支援だ。

   このくらいで揺らがない。 』



「……うん。」


『まず、
  しっかり食べるぞ。』 


「あ、
   サガさん、
   毎日ありがとう。

   夜作ってたんでしょ。

   いつも全部食べなきゃ
   って思ってた。」

『ああ、頑張ったな。』




まだ日は高い。
ソファには
ゆったりと寝そべる狼が
仔猫を載せて
毛布を掛けている。




すごく綺麗。
この二人は
どんどん綺麗になっていくわね。



しばらく
お出掛けは
無しかしら。




目の保養と
サガさんのヘルプで
退屈しそうにないかな。







画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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