私の考察と臨床現場での考え方:プラセボより良好で、オセルタミビルとは引き分け(タミフル→ オセルタミビルリン酸塩カプセル)

 本研究で分かったことは、インフルエンザ症状改善において、バロキサビルはプラセボよりベター、オセルタミビルとは引き分け、ということだった。

 もっとも、がんの研究などと異なり、本研究の症状改善におけるKaplan-Meier曲線は、発症数日でパカっとバロキサビル群とプラセボ群に差が開き、その後急速に差は閉じてしまう。結局、みんな遅かれ早かれインフルエンザは治癒してしまう。インフルエンザの治療薬とは、要するに「治るか、治らないか」ではなく「少し早めに楽になるか」の問題なのだ。

 もちろん、しんどいインフルエンザが早く治るのは良いことであり、その治療薬の価値は大きい。ただ、目指しているエンドポイントが「そういうもの」である点は認識すべきだ。よって、医者にかかるのが面倒くさい、長い待ち時間がつらい、お金をかけたくない、という人は、自宅で寝ているのもそう悪くはない選択肢になるだろう。これは、従来のノイラミニダーゼ阻害薬についても全く変わりはない。

 ところで、今回の研究で面白かったのは、日本の患者と米国の患者で症状改善時間に差が見られた点で、これはバロキサビル群、プラセボ群の両方で共通していた。論文ではデータが示されていないが、もしかしたら両国における体重の差がその説明になるかもしれない。肥満は、インフルエンザ重症化のリスク因子だからだ。

 そう思って論文のTable1を見直すと、興味深いことが分かる。第Ⅲ相試験はインフルエンザ様症状の患者を採用し、インフルエンザ感染陽性者と非陽性者を分けている。すると、インフルエンザ陰性群の方が明らかに平均体重が重く、80kg以上の患者が多い。これは、インフルエンザ陽性者の比率が米国より日本ではるかに多かったせいだ。日本の患者の方が、患者自身のインフルエンザ予測能力が高いのか、はたまた流行時期にたまたま合致していたのか。

 とまあ、不思議なことが幾つもある研究であるが、細かいことは置いておくと、以下のようにまとめられるだろう。

  • バロキサビルはオセルタミビルと症状改善で引き分け
  • けっこう、耐性化を促すアミノ酸置換が多い
  • インフルエンザ治療における位置付けは不明確(オセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬との使い分け方)
  • 長期的な予後や他の薬との相互作用、基礎疾患がある患者などでのデータは、これから明らかにされるだろう

 というわけで、僕は現時点では、本薬を使う理由を見いだせないのだ。革命が起きるかどうかは、まだ分からない。鈴木晴英