新型コロナウイルス感染症制御における   「換気」に関して

注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。鈴木晴英
  • 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の主な感染経路は接触感染,飛沫感染である。しかしながら、換気の不十分な空間において,空気中のウイルス濃度が高くなることがあり,感染のリスクが生じる可能性が指摘されており、実際感染している事例も報告されている。有名な例では広州のレストランで、3家族10人が空調の流れに沿って感染した例がある。
  • ある論文によると3つの「密」の重なる空間の感染者は18.7倍、感染を引き起こすとされている。従って,これらの空間における換気対策は無視できない。
  • 換気方式に関しては、厚生労働省の発表に基づくと、オフィスや商業施設では一人当たり 30m3/h の換気量が確保されていれば、感染を確実に予防できるとはいえないものの、換気の悪い密閉空間には当たらないとしている。各職場での具体的な対策は下記のリンクを参考にしてほしい。
    • 厚生労働省:商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について(2020年3月30日)
  • 換気は、通常の窓を開けた換気、機械換気を利用した換気を用いるか、フィルタ式の空気清浄機を用いることが勧められる。なお、通常の家庭用エアコンやパッケージエアコンは空気を循環させるだけで、換気を行っていないことは注意が必要である。他、一般的なポータブル空気清浄機による空気浄化では、効果は不十分な可能性がある。
  • なお、SARS-CoV-2がエアロゾル化した後、空中での生存時間は数時間程度と報告されている。他、SARS-CoV-2は、プラスチックの表面、ステンレスの表面では2~3日間、ボール紙の表面では24時間、銅の表面では4時間程度生存するとの報告がある。

感染経路

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の主な感染経路は接触感染,飛沫感染である【図表1】。しかしながら、換気の不十分な空間において,空気中のウイルス濃度が高くなることがあり,感染のリスクが生じる可能性が指摘されている。3つの「密」(密閉空間・密集場所・密接場面)が重なる場では同様のリスクが生じる可能性があると集団感染の事例から厚生労働省専門家会議が分析している[1]。

図表1
感染経路
飛沫感染、空気感染、接触感染の3ルートがある(早稲田大学田辺研究室)

根拠となった論文によると3つの「密」の重なる空間の感染者は18.7倍感染させやすいと指摘している[2]。従って,これらの空間における換気対策は無視できない。

WHO(世界保健機関)は、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)では,空気感染は起きていないとしているものの,厚生労働省専門家会議が換気の必要性を示したことから,工学系専門学会から緊急会長談話が発表され,その後も継続して情報が発信されている。これらの情報は、参考文献に示す。

また、空気感染に関しては様々な意見が国際的にある[3]。

飛沫の大きさ

SARS-CoV-2の大きさは、0.050–0.2 μmと報告されている。また、武漢での感染状況は[4]に詳しい。

エアロゾルとは分野によって定義が異なっているが、日本エアロゾル学会では、気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体をエアロゾル(aerosol)と定義している。粒径については、0.001μm程度から花粉のような100μm程度まで非常に広い範囲である。

SARS-CoV-2は、咳、くしゃみ、会話時などに発生する飛沫の中に含まれて空気中に出る。発生するエアロゾルの大きさは、0.25μmから数mm程度である。大きな飛沫は遠くまで飛ばず、沈降してしまうため、距離が離れていれば飛沫感染リスクを低減できる。水分が蒸発してサイズが5μm以下となったものを飛沫核と呼ぶ。この飛沫核や小さな飛沫は一定時間空気中に漂う。

インフルエンザ患者で咳一回当たり 75,400個/咳、快復後は咳一回当たり 52,200 個/咳の粒子が含まれていたという報告もある[5]。

図表2
顔面粘膜への飛沫付着量、飛沫付着数の分布
咳マシン(感染者)とサーマルマネキン(被感染者)を想定して人工的な咳を発生させ飛沫付着量に関する実験を行った。顔面粘膜には90cm離れれば非常に少なく、120cm離れればほぼゼロになる。口から30cm、90cm下の面での飛沫付着量は120cm離れるとほぼゼロになる。下ほど少なくなるのは、飛沫が蒸発して飛沫核になるため。飛沫核は空気中に浮遊する。相対湿度が低い場合は飛沫付着量が少なくなるが、これは飛沫核として空気中に漂う量が多くなることを示す(早稲田大学田辺研究室実験から)[6]。