「新型コロナウイルス感染症」から自分と家族、人々の命を守るために今、私たちは何をすべきか。第11回目は、前回に続き、新型コロナウイルス対策で合理的な「正しい判断」について学びます。鈴木晴英

◼️検査をするかしないかは本質的ではない

 ところが、新型コロナウイルスの流行によって、この方針が変わりつつあります。というのも、インフルエンザの症状を訴える患者さんに検査をやったところ、患者さんの咳やくしゃみでしぶきを受けて、じつは患者さんが新型コロナに罹っていたので、それで医者が感染した、という事例が出てしまったんですね。
これを受けた日本医師会は2020年3月、「迅速キットでインフルエンザをみだりに検査しないようにしましょう」「臨床的な症状、高熱とか喉の痛みとかでインフルエンザかどうかを判断しましょう」と言い出しました。

 やっとか、と思いましたね。ぼくは昔から、もう何十年も前からそうするように言っていたんですよ。検査は間違えるので、とにかく患者さんを診る。検査で判断するんじゃなくて、現象としてのインフルエンザという病気を診る。そして、「この患者さんはインフルエンザという現象を起こしている」と判断したら、それはインフルエンザなのだ、と判断する。

 検査をするかしないかは本質的ではないんです。

 医者がインフルエンザだと判断したら、タミフルのような薬を出せばいいし、たとえ本当にインフルエンザに罹っていても、医者がそうじゃないと思う症状なら、そうじゃない病気という判断でいい。例えば、インフルエンザウイルスが鼻水を出しているだけの病気を起こすことだってありえます。「これを放っといていいのか」と思われる方がいるかもしれませんが、じつは鼻水だけの病気にタミフルを出しても、得られるものなんてほとんどありません。

 ならば、鼻水を出してる人がインフルエンザウイルスによる鼻水なのか他のウイルスによる鼻水なのかは気にする必要はない。要はこの人は「放っとけば勝手に治る何かの病気」だと判断できる。それがインフルエンザなのかどうなのかは分からない。ほっといて治る分には、分からなくていい。だから、この人に検査をしても意味ないよねって話になります。

 これまでの医者は、それを全部インフルエンザかどうか検査をして、ウイルスが見つかったとか見つからなかったとか言ってたけど、鼻水だけの人はもう検査しないでいい。検査結果がどっちであっても、やることは変わらないのだから。判断が変わらないのだから。逆に、39度以上の高熱が出て、喉が痛くて、体の節々が痛くて、という典型的な症状のインフルエンザの患者さんに対して検査をしますね。陽性だったらインフルエンザだと判断できますが、陰性でもやっぱりインフルエンザかもしれないわけです、検査は間違えるから。だったら、もう検査なんかしないで、症状だけで、この人はインフルエンザだと決めてタミフルを出しちゃえばいい、という話になるわけです。

◼️我々はできることで勝負するべき

 もしかしたらインフルエンザウイルスはいないかもしれないけど、タミフルを出したほうがまあ得する可能性が高い患者だ、という判断はできるんです。鼻水を出してるだけの患者さんにタミフルを出しても得られるものはほとんどないし、タミフルにはお腹を壊す副作用があるので、そっちのリスクのほうが高い。

 そうすると、「この症状がインフルエンザというウイルスの感染症であるかどうか」を議論するより、「この人はタミフルを出すべき患者なのかどうか」を判断するほうが、より合理的です。サンプリングで喉をぐりぐりすると患者さんも痛いし、そうこうしているうちに医者もウイルスを撒き散らされる、それが実際にインフルエンザだったり、よりによって新型コロナだったりしたときの副次的なダメージが大きいんだから、正しく診断することは諦めて正しく判断する。だから、これまでもインフルエンザこそが典型的な正しく判断すべき病気だったし、新型コロナウイルスがきっかけになって、ようやく日本医師会もそれを言い出しました。

 話を新型コロナウイルスに戻します。

 ですからぼくは、日本政府のコロナ対策は概ね正しいと考えています(「概ね」と表現したのは、部分的には間違いがあると思うからです。それについては後ほどあらためて解説します)。4日間症状が続いたら病院に行きましょう、あるいは妊婦さんや高齢者、持病のある人は少し早めに病院に行きましょうというのは、正しく診断することをはじめから放棄するということです。

 このやり方では、家で寝ていれば勝手に治るコロナウイルスを見逃しているかもしれないけど、別に見逃してもいいんです。家で安静にしているのなら。病院に来なくていい人は病院に来ないほうが、二次感染は拡がりません。症状が軽い人に対して病院ができる治療はそもそもないんだから、勝手に治る人は勝手に治しちゃえばいい。それでも治らない人は病院に来れば、そこでは酸素も投与できるし、血圧を上げることもできるし、人工呼吸器につなぐこともできる。その必要性を判断する根拠は、症状です。PCRが陽性だったらコロナだと言い当てられるけれど、場合によってはPCRが陰性かもしれない。陰性であっても、もしかしたらコロナかもしれない、という判断はできるから、隔離は続けますよ、ということになります。

 繰り返しますが、正しく診断するという方法論に無理がある以上、正しく判断する戦略を取るしかありません。できっこないことにすがるより、我々はできることで勝負するべきなんです。