①
本格的にレスラーを志した僕は、
筋トレ再開。一からきたえ直す。
何にも手つかずだった以前とは別人で、
体づくりに専念し、空白期間を挽回。
食べるのも努力だ。
大量に買い出した格安の肉や即席めん。
そして不味いプロテインで栄養補給。
食欲がなく激減していた体重は、
一日5食のおかげで みるみる増量。
サイズが元に戻り、服が うなずいた。
地道なトレーニングをこなす毎日、
ひたむきに疲労と回復を繰り返す。
②
器具が無造作に置かれた、公共の運動ジム。
茶色にさびたバーベルを持ち上げ、
狭い一室に、金属音が響き渡る。
回数や重量を増やし、徹底的に追いこむ。
しかし力を出し切っても、
コンプレックスは消えず、尽きない不安。
恵まれた体格も、スポーツの実績もない僕が
はたしてレスラーになれるのか。
なれるだろう。
強気になり、何でもできそうな無敵感。
いや無理だろ。
弱気に戻り、何もできっこない無力感。
根拠のない確信。それを打ち消す不信。
幻想と現実を振り子のように行き来。
そのとき偶然、目に飛びこんだのは、
くすんだ壁に貼ってある、
一枚のプロレスのポスター。
顔も名前も知らない選手ばかり。
だが僕の目線は引き寄せられた。
"練習生募集 身長・体重制限なし"
やる気さえあれば、君もレスラーになれる。
そんな文言に惹かれ、スイッチが入った僕。
才能や素質が皆無でも、それを言い訳にせず
何がなんでも、何としてでも諦めたくない。
考えだしたらキリがないな。
とにかく見に行ってみよう。
③
会場は小さな体育館。観客は数百人だけ。
僕が知るプロレスと大違いのスケール感。
間近に置かれてあるリング。
熱心に見入っているファン。
試合は白熱して大盛り上がり。
ポスターの真ん中に写っていたレスラーが、
大声を出してパワフルなファイトを見せる。
丸太みたいな腕を振り回し、相手をなぎ倒す。
リングが激しく揺れ、大きな衝撃音。
凄まじい迫力を至近距離で味わう。
大会後、その選手が目の前を通った。
体の厚みが尋常じゃなく、
こわばる僕は声をかけれずにいる。
何をためらっているんだ。
足踏みだけでは進まない。
時には大胆にチャレンジせよ。
今しかないぞ・・・
タイミングを逃すな。チャンスを掴め。
踏み出そう、一歩前へ。
勇気を振りしぼり、意を決して入門を志願。
プロレスラーになりたいです。
するどい眼光で、みなぎる熱意をぶつけた。
「おう、よろしくな!」
あっさり心良いOKをもらうと、
がっちり力強い握手を交わした。
弟子入りを果たし、晴れて僕は練習生に。
この選手が師匠となり、訓練が始まった。
(つづく)
♪イメージソング
ピットブル、フロー・ライダー、
&ランチマネー・ルイス「グリーンライト」
プロレス界最大の祭典、WWE レッスルマニア
その2017年大会の公式テーマソングに使われた曲です。とてもノリがよく、
アクセルを踏み込みたくなりますね!
🚥Greenlight=青信号だけに笑💨
"今しかないぞ!"というフレーズは、
昔、長州力がアントニオ猪木に宣戦布告したとき、仲間たちに呼びかけた言葉です🎤
僕は当時を知りませんが、この名言(?)に多くのファンが勇気をもらったことでしょう…
試合だけでなく、言葉や信念、そして生き様で人の心を動かすのがプロのレスラー。
主人公はレスラーになれるのか?注目です👀
次回は 5章 2話 修錬
10/1(日)に投稿予定です🍀
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