今日は8月3日。
オレにとって特別な日だ。

今からずっと前、あの人はこの世に生まれた。
そしてオレが22才の時にあの人と出会った。

子供の時からテレビで見てはいたが会うのは初めてだった。
プロレス入りしてからも、自分のまわりの人達があの人の影響を強く受けていたから「いつか会いたいな…」なんて思っていた。

あの人と初めて会った日の事は覚えている。

練習中のオレ達のところに、なんの前触れもなくフジワラサンが連れて来た。
「オマエたちに良いコーチを連れて来た。」

黒い革のジャケット。
まっすぐに立つ姿。
白髪まじりのヒゲを右手で触り、瞬きもせずジッとコッチをみるその目は全てを見透かしているよう。

Nice to meet you !

ありきたりの挨拶をし、握手をするともの凄いチカラで握り返してきた。
そして一言。。

I'm a gotch...





それから毎日一緒に練習した。
毎日一緒にスクワットをした。
毎日一緒に食事をした。
毎日一緒に話をした。

プロレスのコト。
トレーニングのコト。
闘いの始まりのコト。
過去のコト。
未来のコト。


アメリカに帰った後も、手紙という古くさい手法で連絡を取り続けた。
自分に何かあると手紙を書いた。
「和英辞典」と「英語の手紙の書き方」という本を片手に書いた。
それはもはや英語とは言えないレベルでの手紙だったに違いない。
まるで赤ん坊が書いたかのような単語の羅列。
でも気持ちや想いを伝える為に書き続けた。

返事はいつもちゃんと着た。
A4の紙に、裏表びっしり改行する事もなく書かれていた。
それが数枚にも及び、解読するのに手紙を書く数倍の時間が必要なくらいかかった。
当時在籍していた会社の渉外担当者に和訳をお願いした時のこと。

「すいません。この手紙に使われている文字が古いものなので読めません。」

いつも古いタイプライターで手紙をくれた。
ガチャガチャと打ち込み、端までいくと手でガシャーンと戻す本当に古いやつ。
数年後、その機械がこわれ手書きに変わった。
手書きがまた読みにくい。
文字全部が野球の帽子の様な文字。
書くのも面倒だろうに。
一度聞いた事がある。

「この文字読みにくいです。書くの面倒じゃないですか?」

すると「私はこの文字しか書けない」という答えだった。




数回トレーニングビデオも送られて来た。
自分でビデオカメラをまわしながら話していた。

「いいかスズキ!新しいスクワットのカタチを思いついた。ユーにはこれが必要だ。」

そこに映っていたのは、当時面倒をみていた名前も知らない兄弟弟子。
そして最後に決まってこの言葉で締めくくられていた。

「この言葉を忘れるな。Never lie,Never cheat,Never quit.幸運を祈る。」




一人で自宅のあるアメリカ合衆国フロリダ州タンパに行った事もある。
一人で海外滞在練習をオーストラリアでしていたので、そこから行った。
シドニーから成田を経由してロサンジェルスに行き、そこから国内線でタンパへ。
何時間かかっただろう…
30時間位は飛行機に乗っていた記憶がある。


自宅につくとマンツーマンで指導を受けた。
朝から日が暮れるまで。
毎日。
庭にあるたくさんのトレーニング器具を使い、体中鍛えた。
地平線まで見えるンじゃないか?と思うほどまっすぐな自宅前の道で延々走ったコトもある。
電柱につく度に課題が出される。
「よし、プッシュアップだ」
「次はスクワットだ」
「ジャンプを20」
「腹筋だ」
「モモ上げだ」
延々と続く「道」「電柱」「トレーニング」


庭の芝生の上でビデオに映っていた名も知らぬ兄弟弟子と寝技練習。
そこで覚えたのが「ローリング・ショルダーフック」という技。
全てのトレーニングが終わると芝生ならしのペグを持って来て
「めくれた芝生を元に戻しておけ」
言われた通りに汗だくになりながら、でも笑いながら芝生をならした。
5分ほどすると、決まって大きなコーヒーカップを持って来る。
さんさんと降り注ぐ暑いフロリダの太陽。
もうもうと湯気が出てるカップ。
「さあ、飲め!スペシャルドリンクだ!」
ハチミツたっぷりの紅茶。
甘かった。
熱かった。
あの味は忘れない。

練習が終わるとシャワーに入るのだが、水滴を全て拭き取ってからじゃないと出てはいけないルール。
すべて吹き終わる頃には、再び汗が吹き出ていた。

本棚や家具はきちんと並べられ、ホコリひとつない。
テレビのリモコンですら、向きを揃えて並べられている。

練習の後は、食事タイム。
真っ黒な少し酸味のある固いパン。
それとサワーキャベツ。
コンビーフ。
ほとんど毎日同じ食事。
食事中もしゃべりっぱなし。
技の話、闘いの話、日本の話…。
でも美味かった。

食事が終わると今度はテレビ台の下からワインが出て来る。
これもお決まり。
ぬるい温度の安いワイン。
一杯で体に染み渡る。
一本あけた頃に「じゃあ、また明日」
そういって一日が終わる。










あの人が亡くなってもう7年になる。
昨年は日本で言うところの「七回忌」にあたる年だったので、
感謝の気持ちを込めてTシャツをつくった。
胸には若い頃の写真。
背中にあの文字。



Never lie,
Never cheat,
Never quit.




売上は東日本大震災義援金として寄付をさせてもらった。










今日はオレに多大なる影響を与えてくれた人の誕生日。
先週命日を迎えたのだが、オレにとっては
「目の前からいなくなった日」よりも、
「この世に生を受けた日」の方が感謝できる。


あの人がこの世に生まれて来たから
「今の自分が存在している」
あの人と出会う事が出来たから
「現在のオレがこの世にいる」




だから…
ココロを込めて…
天に向って…
こう言う…


Happy Birthday to
Mr.KARL GOTCH.





























そんな鈴木みのるは今日も絶好調!今日は…いや、今日も体中にチカラがみなぎっている、

鈴木みのるのオフィシャルグッズショップ
「パイルドライバー」


こんな暑い日が続くと思い出す。いつか行かなきゃな…あの場所に。墓を持たずに自宅裏の湖に散骨したらしい。それがあの人の最後の願いだったらしい。会いに行かなきゃ。今日もオレの中で生き続けている。。。