「第四話」







自分で動くことのできない“石ころ”。



みんなに置いていかれた“石ころ”。



そこに存在していることを誰にも気にされない“石ころ”。



風になれない“石ころ”。









“石ころ”は、いつしか終着駅に向かおうとしていた。

「もう、終わろう…」










そんな時、オレはあの日のことを…アイツの事を思い出していた。




この世界に入り、初めて“敵”と認識した男。
デビューした頃、一度も勝てなかった男。
坊主頭の新人の頃、周りから“ライバル”と言われた男。




そいつは、オレとはまったく違う道を歩いていた。

ペイントレスラーになってみたり、
ウォリアーズの一人になってみたり、
業界最大手の団体でタイトルを取ったり、
女子レスラー最恐と呼ばれた女を嫁にもらったり。

アノ頃とは別人になっていた。
何もかもが変わっていた。






もう一度…
たった一度でいいから…
あいつと…
もう一度戦いたいな…
あいつならきっと…

「ルールなんて何でもイイ!」

とか言ってくれるんじゃないか…
そうしたら…
燃え尽きるコトが出来そうだ…

あいつならきっと…





そんな思いが駆け巡った。












爆発しそうな若い力を抑えきれず、ライオンマークを飛び出した。
そして、辿り着いた夢舞台。
でも、すぐに蜃気楼のように消えていった。

その後、鬼といわれた親父に付いていくが、ここでも、力を持て余した。
鬼と親子喧嘩し飛び出した。
数人の仲間と共に、理想を求め、小さな舟を漕ぎ出したのが1993年。
様々な時間の中、最後に思い出したのがアイツ。






「コレが最後だ。もう一度、闘いたい。」







オレの心を、
心の中をみた仲間が、
実現に向け動き出した。


どんどん話が進んだ。
それこそ、びっくりするほどトントン拍子に。





遂に日にちと場所まで決まった。
2002/11/30 横浜文化体育館




「男と男の真剣勝負」




これ以外、何の条件も要らなかった。

だって最後だもんな…。








しかし、実現はしなかった。




アイツは直前に大きな怪我をし…
ついでに所属団体を退団…






言葉が出なかった。
俺は、高ぶった気持ちを抑えきれないでいた。
だが、どうすることも出来なかった。
やり場の無い気持ち。









オレは…
こんな最後の願いも叶わないのか…
それほど小さくなってしまったのか…









!!!


一本の電話がオレの携帯電話にあった。


「お前、どうするんだよ~やめちまうのか? お前の気持ち、オレにはわかるぞ!
お前の行き場の無くなった気持ち、どこに行くんだ? どうするんだ?
おい!

…オレが全て受け止めてやる。オレじゃあ、物足りないかも知れないけど、お前の気持ち…もう、オレしか受け止めれないだろ? こうなったら、マスク脱いででも何でもいいからオレがやる。オレでいいよな? お前を受け止めることが出来るのはオレしかいない。オレはアイツより弱いかもしんないけど…。オレでいいよな? オレと闘え!」







涙腺が決壊し、大洪水の様に溢れ出て来た。
目は見開いているのに、デッカイしずくがボタボタと落ちて来た。

涙が止まらなかった。

そして言葉にならない言葉で答えた。




「あいがとう…
ご、ござ、います…
オレと試"あい~…
お願い…します…。」








頭に浮かんだのが“風になれ”。
風になれの風の音。





もう一度、アノ歌を聴きたい。
アノ歌で、アノ歌と共に闘いたい。




それは素直な気持ちだった。






2002年11月30日
“石ころ”の最後に実現したのは…
想像とは全く違う…
思いもよらなかった…


アイツとの試合だった。











つづく




























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