もしも君が、本当に18歳だったら・・・―――
「せんせーい、せんせーーい」
「なんだ、ピノコ」
先生と呼ばれるブラック・ジャックは
その呼び方にまず、違和感を覚えた
普段ピノコは
あの舌足らずな口調で「チェンチェイ」と呼ぶのだ
なのに今日は「先生」って・・・
ま、ちゃんと先生と言えるようになったのだから
そこは喜ぶべきなのだろうがな・・・
嬉しいような、悲しいような
本当の我が子を持つ父親のようなことを考えながら
ブラック・ジャックは扉を開ける
「なっ!!」
その光景は、衝撃だった
「先生、なんなのよさ、これ~」
口調からしてピノコに違いはない
だが
どこからどう見ても
”年頃の女の子”にしか見えない
年は、17~19ぐらいの
女の子にしか見えないのだ
「・・・・・」
「せんせーい、黙ってないで、なんとか言ったらどーなの?」
ブラック・ジャックは黙ってピノコに
たんすの仲の自分の服を投げ捨てる
「え?」
「それに着替えろ。・・・色々見えてる」
「へ? ・・・あぁーーーーー!!! 先生のエッチーーー!!! 大っ嫌い!!!」
「おいおい・・・」
赤ん坊のような体型にあった服を着ていたのだ
急激に体が大きくなれば
着ていた服も、もはや無意味に近い
「あっ、ちょっと先生! どこに行くの?」
「何故お前が急に元の18歳の姿に戻ったのか、調べるためだ」
「18歳・・・そっか! あたし、本当の姿に戻れたんだ!」
「・・・あぁ」
「せんせーーーい!」
いきおいに任せ
ピノコは先生に抱きついた
「あぁ、もう。分かったから抱きつくな。鬱陶しい」
「な、鬱陶しいってなんなのよさ! レディーに向かって失礼よ!?」
そうだ。
ピノコはもう小さな子じゃない
立派な、18歳の女の子だのだ・・・
「お前、出かけてきたらどーだ?」
「え?」
「やっと元の姿に戻れたんだ。ショッピングやなんやら、してみたいだろ?」
「せ、先生・・・! でも、まだ晩御飯の準備が・・・」
「それぐらい、私がやる」
「え! そんなぁ・・・先生に悪いのよさ・・・」
先生は目を見開いてピノコを見つめた
そして、肩をおとしやれやれと首を振った
「何を遠慮している? 一緒に暮らしている仲だろう?」
「そ、それってもしかして、夫婦ってゆー意味・・・?」
頬を赤く染めながら
ピノコはまじまじと見つめる
それに対する
ブラック・ジャックの返事も冷たくて
「はいはい。なんとでも言え。 いーから、出かけてきなさい」
「わーい! 先生ありがとー! じゃああたし、出かけてくるね!」
「あぁ。行ってきなさい」
「うん! 先生大好き」
「どっちなんだよ」
ルンルンな様子で
家を出ていったピノコ
名残おしそうに
ギリギリまで見つめ
「さて、私も準備をするとするか」
ブラック・ジャックは
夕飯作りに取り掛かった
「ただーいまぁ」
洋服店で可愛らしい服を買い
ご機嫌な様子で戻ってきたピノコ
「あれ?なんかいい匂い」
部屋に入るなり
中がいい匂いでいっぱいになっていたので
辺りを見回してみた
テーブルに沢山のご馳走を見つけたのだ
そばには
それを作ったブラック・ジャックも一緒にいた
「先生、これ、全部作ったの!?」
「私にだって、これぐらいできる」
先生がこんなにも料理が上手いなんて知らなかった
まさにプロの作った料理なのだ
「す、すごい! 先生すごすぎる!」
「今日は、お前が元の姿に戻ったお祝いも兼ねてこれを作ったんだ。感謝しろよ?」
「うん! するする! 先生だーい好き」
「はいはい。 ピノコ、此方おいで?」
「え?」
さっきは抱きついたら鬱陶しがられたのに
今度は自ら腕を広げている
「先生? いいの?」
「あぁ」
先生の目は優しく微笑んでいる
どうやら、本当にいいようだ
安心し、ピノコは優しく先生に抱きつく
「先生・・・」
「ピノコ・・・」
ピノコの腰に腕をまわし
2人の距離はさらに縮ばむ
「先生、あたし・・・先生が大好き」
「あぁ。私も、お前が大好きだ」
「先生・・・」
嬉しさのあまり
ピノコの目には涙が貯まる
目を閉じたはずみで涙が溢れる
そして、溢れた涙を拭った後
先生は優しく口付けて・・・―――――
「チェンチェイ! 何時まで寝てるのよさっ!」
「へっ!!?」
ガターン
ソファーの上で寝ていた先生は
驚きのあまり床に落ちてしまった
「いたたたた・・・」
「ちょっとチェンチェイ! 何やってんのよさぁ!」
「夢、か・・・」
「夢? チェンチェイ、どんな夢見たの?」
「お前には内緒だよ」
「えーー! そんなのズルイー!」
ピノコは頬をぷぅっと膨らます
「でも、いい夢だったんだね?」
「なんで?」
「だってチェンチェイ、夢見てる時笑ってたよ?」
「なっ・・・! 知ってたなら起こせばよかっただろ!」
「だって、ギリギリまで寝顔が見てたんだもーん」
「はぁ・・・お前とゆー奴は・・・」
「へへーん」
してやったりと
ピノコは悪戯っぽい笑みでニコニコと笑う
大人のピノコもよかったけど
やはり私は・・・
「ピノコ」
「なーに?チェンチェ・・・」
振り向いたと同時だった
振り向いたと同時に
先生はピノコの頬に優しくキスをした
しばし、見つめ合う2人
ピノコの顔は
みるみる真っ赤になっていく
「え、えええええ! な、なんなのよさチェンチェイいきなり!!!」
「いやだったのか?」
「ちょ、ちょんなことは言ってないけど・・・」
「じゃあ、何?」
「何って・・・どーせなら、口にしてくれてもよかったんだよ?」
「ぷっ」
「あーーーーー!」
必死になって答えるピノコを見て
つい、笑いを吹き出してしまった
「チェンチェイ、なんで笑ってんのよさっ!!」
「悪い悪い。 必死なお前が可愛くてな」
「・・・コホン、まぁ、それはあたちも分かってますけど」
「それに、唇にする口づけは、本当に大切な人のためにとっておきなさい」
「ピノコにとってチェンチェイは、本当に大切な人だよ・・・?」
「え・・・」
あまりにも衝撃的な発言に
常に平常心な先生も同様を隠せなかった
「あれ、チェンチェイ? 顔、赤いよ?」
「・・・うるさい。とにかく今日はもう遅いから、さっさと寝なさい」
「えー! もう、チェンチェイと一緒なら寝ていーよ?」
「・・・わかった」
「えーーーーー!!!」
まさかYESと答えが返ってくるとは
夢にも思っていなかったピノコ
あっちょんぶりけーと
得意なポーズをかまし先生を見つめた
「ほんとーに? ほんとーにいいの?」
「いいっていってるだろ?」
「わ、わーいわーい! チェンチェイ大好き」
言って先生に足にぎゅうっと抱きついてくるピノコ
その様子が可愛くて、愛おしくて・・・
「私も、だ」
その小さくて消え入りそうな呟きは
どうやらピノコには聞こえなかったみたいだ
でも、それでよかったと思う
もし聞こえていたら
明日から恥ずかしくて顔を合わせることもできない
一緒に、こうやっていられるだけで
満足なのだ
それ以上は求めないさ
いつか体も大人になったら
デートでもしてやるかね
そう、心に誓う
ブラック・ジャックであった