行き暮れた思いで過ごしていた時、幼少期に助けてもらった女性住職からお寺を閉じるとの連絡がありました。
揺蕩う心を繋ぐよすがを求めていましたし、住職に感謝の気持ちを伝えたかったので、山の寺を訪ねることにしました。
手紙は何度も送り合っていたました。
それでも、久しぶりに入った茶室で、変わらぬ佇まいで迎えてくれた住職は、齢を重ねても、なお美しいと思える女性です。
茶花は、白侘助が白磁の壺に品よくおさまっていました。
境内には咲いていない白侘助を、山を下りて需めてきてくれた、その心に思わず涙が零れそうになります。
これまで繰り返してきた時間を反芻しながら、点前を褒めていると、突然住職が話し始めました。
「そのご縁は決して切ってはいけませんよ。あなたとその男性は、前世では兄妹として生まれ、どのような困難も二人で力を合わせて乗り越えたのです。今生では、夫婦としてともに生きるのです。二人なら、すべて乗り越えられますよ」
驚きました。
私は、嵯季さんのことを誰にも話していません。
それだけでなく、全く同じことを、別の人からも言われていたのです。
一人は、高校時代からの親しい友人で、占いを生業としている人。
もう一人は、訪問看護でかかわっている霊媒師の高齢女性。
正直なところ、私は前世とか占いとか全く信じていませんでした。
でも、住職は、これまで私に死後のことや輪廻転生のような類の話を一度もしたことがなかったので、本当に吃驚したのです。
そして、友人の占い師さんは、すい臓がん末期で、私に伝えてくれたあと、ほどなくして亡くなっています。
霊媒師の女性は、以前に私の背後にいる霊について話してくれたことがあり、その日の夜、不思議な力を感じて大事故に遭いながらも命が助かった経験をしています。
なにか、大きな力に引き寄せられるような感覚に陥っていました。
山を下りた後、嵯季さんにメールを送信しました。
「待っています」