最近、開発チームの中で妙な空気を感じていないだろうか。
コードを書く人はどんどん楽になるのに、レビューする人はどんどん苦しくなる——。
もしあなたがそう思っているなら、それは気のせいではない。

GitHub Copilot、Gemini、Claude などの登場によって、AI のコード生成速度は爆発的に向上した。何十年の経験を持つエンジニアでさえ「確かに生産性は上がった」と認めるほどだ。
だが現実は、期待したほど“バラ色”ではない。

Pull Request は激増し、1つのバグ修正で3つの新しいバグが生まれ、「動いているように見える」だけの冗長なコードが増え、最後の30%の細かい工程がチームの負担として最大化している。
そして、そのほとんどが コードレビューを担当するシニアエンジニアにのしかかる。

Google Chrome & Gemini のエンジニア、Addy Osmani が最近のポッドキャストでこの状況を分析したが、その内容に多くの開発者が深く共感した。
彼の指摘はこうだ。

「AI は確かに生産性を上げている。しかし同時に、コードレビューを新たなボトルネックに変えてしまった。」

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1. 初心者が見るのは動くデモ、シニアが見るのは“技術的爆弾”

Addy Osmani は、AI が UI 構築や業務フロー、ボイラープレートコード生成では非常に優秀だと認める。
初心者でも数行のプロンプトで“動くアプリ”が作れてしまう。

だが——それは多くの場合「動いているように見えるだけ」だ。

  • 不明確なシステム境界

  • 未処理の例外

  • 強耦合化したコード

  • 認証、安全設計の欠落

  • API Key、設定、運用を無視した構造

  • ロジックの一貫性欠如

  • 低い保守性

こうした「技術的爆弾」はすべてコードレビューで発見される。
結果として、シニアエンジニアは AI が生み出した複雑なロジックを分解し、修正するための膨大な時間を費やすことになる。

Google DORA の調査でも、

  • AIコードへの好感度は 70% → 60% へ低下

  • 30% の開発者は AIのコードを“ほとんど信頼していない”

という結果が出ている。


2. AI は70%を助けるが、“一番難しい30%”は人に降りかかる

Osmani が提唱するのが「70%問題」。

AI はUIや基本構造など“作りやすい部分”を高速で書いてくれる。
しかし、残った最難関の 30%——

  • ビジネス境界

  • 例外処理

  • 安定性・性能要件

  • 長期保守

  • 隠れバグの排除

これらはすべて 人間が責任を負う部分 であり、かえって負担が増えている。

さらに恐ろしいのは、この悪循環だ。

1バグ修正 → 新たに2バグ出現 → AIに修正させる → また新たなバグが…
“Two steps back(1歩進んで2歩下がる)”状態 に陥りやすい。

だから Osmani は強く言う。

「AIに任せっぱなしにせず、自分でコードベースを理解できる状態を保て。」


3. AI依存が進むと、開発者は“考えなくなる”危険性

Osmani が特に懸念するのが、
問題解決能力・コード理解力の劣化 だ。

その対策として彼が提案するのが:

  • AIFree Sprint Day(AIを使わない開発日)

  • AIに決定プロセスをまとめさせる“決定記録”ファイルの作成

これにより、理解力を維持しつつ、AI と人の両方が学習できる。

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4. AIの70%を超える鍵は「コンテキストエンジニアリング」

AI が性能を発揮するかは、
どれだけ適切な文脈(コンテキスト)を与えられるかで決まる。

  • システム仕様

  • ドキュメント

  • コード規約

  • 設計思想

  • API仕様

  • 過去の議論ログ

  • 例示コード

これらを AI に与えることで、生成コードの品質は劇的に向上する。

Osmani の言葉を借りれば:

「Prompt & Pray(書いて祈る)の時代は終わった。
情報をすべてAIに流し込む時代だ。」

さらに、テストもAI時代の重要な安全網となる。


5. AIは本当に“生産性を2倍”にするのか? → 実はそんなに上がっていない

Addy Osmani が Google 内部のデータを見た結論はこうだ:

AIによる効率向上は“2倍どころかそこまで大きくない”。

特に既存の歴史あるコードベースでは効果が限定的で、むしろレビュー負荷の増加が問題化している。

Pull Request は増え続け、
レビュー担当者は限られ、
レビュー時間は膨張し続けている。

「コードレビューが新たなボトルネックになっている。」


6. それでもAIは“最高の学習パートナー”になり得る

Osmani が最も評価しているのは、
AI が“理解を補完する存在”になれることだ。

  • 古いコードの理解を助ける

  • 思考の抜けを補完する

  • システム全体の心的モデルを形成する手助けをする

AIは「書くツール」ではなく「理解を支えるツール」になる可能性が大きいという。

原文:https://thenewstack.io/is-ai-creating-a-new-code-review-bottleneck-for-senior-engineers/