部屋の前でたたずむティンティン。正直めちゃくちゃ焦りましたが、

それを表に出さず、無視するように部屋の鍵を開けて中に入ろうと

したら、強引にティンティンが入ってきました。ユエンユエンは

遠慮がちに扉から遠い廊下にいました。

 

「お邪魔します」

 

ティンティンは日本流の言い回しが出来るので、その様に言って、

靴を脱ぎ、さっさと部屋に入ってソファーに座りました。

 

「もう貴女は必要ないと言ったでしょ。出て行って」

 

と私は言いましたが、「話をしてくれるまで出て行かない」と

こわばった表情で言いました。

昨日の非礼を詫びるような態度ではなく、怒っているような態度

でした。これが中国人の対応だなと思いました。

この辺は謝らない国「中国」です。

動きそうにないので、「もういい、勝手にすれば」と言って彼女を

置いて私が部屋から出ました。廊下では不安そうな表情を

浮かべてこちらをみているユエンユエンがいました。

彼女をいざなってマンションから出て、外のベンチに座って話を

しました。

 

「彼女、貴方の家知ってたんだね。何回ぐらい来たの?」

「2回かな」

「でも彼女の物が何もなかったね」

「だってまだ何もしてなかったもの」(ちょっと嘘ですけど)

「そう・・・彼女はまだ貴方の事、好きなんだと思う」

「じゃ、貴女はどうするの?」

「私は貴方が好き」

「だったら、心配要らないよ。だけど俺は誤解が怖い。

だから今は俺を信じて欲しい」

「うん、私は貴方を信じているよ」

「仕方が無いから散歩しようか。洗濯できなくなってしまったね」

「明日やっておいてあげるよ」

 

というわけで、天気も良かったので特に行く当てもなく、

ぶらぶらと散歩しました。

1時間以上歩きました。色々な事を話しました。喉が渇いたので、

途中でジュースを買ってさらにぶらぶらとマンション群の中を

散歩しました。

まだこの子との会話が尽きる事はありません。お互いが知り合って

間もないので、いろんな事を聞く事になります。でも興味の無い子だ

とそういう意識もないのですけど、この子の場合はお互いに色々な

事を聞いていろんな考えを話します。中国語なので、どこまで

伝えられているか分かりませんが。

 

さて、さすがに少し疲れてきたので、マッサージにでも行こうと思い、

店に行こうとしていたら、ちょうど露店が並んでいるところに出くわし、

そこで彼女がちょっと品物を物色している最中に電話が掛かって

きました。

 

無視しても良かったのですが、一度はっきり言っておかないと

何時まで経っても家に居座っていそうな感じがしたので、

彼女が店員と値引き交渉に夢中になっているのを良い事に

少し離れて電話に出ました。

 

「まだ家にいるの?何で家に来たの?もう貴方は必要ないと

言ったでしょ?」

「貴方が話をしてくれるまで、家に居る」

「じゃ、今言う。貴方は俺の話を信じない。勝手に疑って、勝手に

怒って、昨日友人の前で俺の顔を潰した。そんな小姐は、

俺は必要ない。」

「でも、私はまだ諦めきれない」

「もう、俺の事は忘れて」

「いや、家に戻ってきて」

「いやだ。いいから早く家から出て行って。迷惑だし失礼だ」

「ずっとここに居るから・・・」

「警察呼ぶよ?」

「・・・」

「違う良い人を見つけて、じゃね」

あまりに長いとユエンユエンが心配するので、早めに切り上げました。

局何も買わなかったユエンユエンがたたずんでいました。

「彼女(ティンティン)から?」

「うん」

「まだ家にいるの?」

「うん。彼女の態度はとても悪い」

「じゃ、マッサージ行こっ」

「うん」

 

マッサージは長めに90分コース。久々に行ったのですが、

(温泉ではなく)ちゃんとしたマッサージは気持ち良いですね、

やっぱり。うとうと気分で少し寝てしまいました。

 

マッサージが終わると夕方になっていました。さすがにもう居ない

かなと思い、一度確認に行く事にしました。マンションに戻って

ちょっとドキドキしながら、部屋を恐る恐る開けると誰も居ません。

ようやく諦めたようです。

さてこの夜は、すべてを夜に先延ばししたユエンユエンがどのような

態度に出るか楽しみ半分、不安半分だったのですが、ご飯を一緒に

食べに行く時に、衝撃的一言を発しました。

 

「ごめん、私、きちゃったみたい・・・」(続く)