ヴィレッジヴァンガードが苦戦している。
かつてのヴィレヴァンには、他のどの小売店にもない独自性があった。それを支えていたのは、サブカルに詳しいスタッフが自分の裁量で仕入れを決めるという仕組みだ。だからこそ「こんなもの売っているの?」という発見があり、店を歩くこと自体が楽しかった。
しかしPOSシステムが導入されて以降、状況は変わったと言われている。効率化・在庫最適化のためには当然の施策だが、その結果、現場の目利きの裁量が本部の標準管理に飲み込まれ、気づけばドン・キホーテなどでも見かけるような、代わり映えしない商品構成が増えてしまった。
だとすれば、いま必要なのは「もっと売れる商品を置く」「ECを強化する」「新規事業に進出する」といった対症療法ではない。むしろ、POS化によって失われた「現場の裁量」を、意図的に一部の店舗に取り戻すことではないか。
全体像:ひとつの循環をつくる
この構想の結論を先に示す。
普通店舗(誰でも入りやすい入口)
→ その中の一部が 特化店舗(オカルト・特撮などジャンルに振り切った店)を知る
→ 特化店舗で 商品を買う
→ その商品を 飲食店で実際に食べる・体験する
→ 体験が SNSで話題になる
→ イベントでコアファンになる
→ コラボで新しい商品・コンテンツが生まれる
→ また店舗に戻る
一つ一つは別々の施策に見えるが、全体では一つの循環になっている。小売、飲食、BAR、イベント、コラボ、SNSがそれぞれ単体の利益を目指すのではなく、互いに客を送り合い、互いの価値を高め合う設計だ。
そして、この循環の到達点を「聖地」と呼ぶ。「オカルトが好きならあそこ」「特撮が好きならあそこ」と言われる場所を全国に作ること。それが、この構想が目指す最終形だ。
以下、この循環を構成する要素を順に見ていく。
「普通のヴィレヴァン」と「特化型ヴィレヴァン」を分ける
すべての店舗を同じ方向にする必要はない。
普通店舗は、特定のジャンルに興味がない人でも入りやすい場所にする。目的がなくてもいい。「何か面白いものないかな」という感覚で入り、たまたま変な商品を見つけて「何だこれ(笑)」と思う。その体験をきっかけに一部の人が「自分はオカルトが好きだから、専門店にも行ってみたい」となる。つまり普通店舗は、特化店舗への入口になる。
一方で特化店舗は、特定のジャンルに思い切り振り切る。オカルトなら関連書籍、DVD、グッズ、限定商品、イベント、そしてそのジャンルに強い発信力を持つ人物とのコラボレーション企画。特撮なら制作会社や俳優・クリエイターとのコラボ、限定映像、限定グッズ、ファン同士が交流できる場。重要なのは、単に商品をたくさん置くことではなく「そのジャンル好きが行きたくなる場所」にすることだ。
同ジャンルの店舗は、商圏が十分離れているなら同じ県内に複数あってもいい。重要なのは「一県一店舗」ではなく、その地域のファンにとって行く価値がある場所になっているかどうかだ。

飲食店を「広告塔」にする——ただしトントンでいい

一般的な小売×飲食のコラボは、飲食店が主で、物販は副次収益という力関係になっていることが多い。しかしこの構想では、その関係を逆転させる。主役はあくまで店舗で売っている商品であり、飲食店は「その商品を売るための体験・消化チャネル」として位置づける。飲食店自体の黒字を目的にしない、というこの後の設計も、この逆転から必然的に導かれるものだ。

ヴィレヴァンが販売している食品の中には、「これ、実際どうなんだ?」と思うような、面白いけれど買うには少し勇気がいるものがある。それを飲食店で実際に体験できるようにする。「ヴィレヴァンで販売している○○を使った限定バーガー」のような形で、元の商品が入っているとひと目でわかるメニュー設計にする。これは単なるコラボメニューではなく、商品そのものを体験として売る仕掛けだ。
食べてみる。面白い。意外とおいしい。「これ家でも食べたいな」と思う。帰りにヴィレヴァンで元の商品を買う。つまり「商品→飲食体験→商品購入」という循環ができる。
ここで重要なのは、この飲食店に大きな黒字を求めないことだ。家賃・人件費・原価といった店舗単体の直接コストがトントン(収支均衡)であれば十分と割り切る。そこに乗ってくる「物販への送客」「SNSでの話題化」「特化店舗・イベントへの誘導」は、店舗損益とは別立てのリターンとして丸ごとプラスに扱う。
これは実質的に、広告費として使うはずだった予算を飲食店の運営コストに転換しているだけとも言える。最悪、送客効果がゼロだったとしても店舗単体では赤字にならない。その下限を保証した上で、話題化という上振れを狙う設計だ。
なお、ヴィレヴァンは過去にも飲食事業(V-caféなど)を手がけ苦戦した経緯がある。その失敗との違いは明確にしておきたい。過去の飲食事業が「ヴィレヴァン風の内装をした、ただの飲食店」だったのに対し、今回の構想は物販商品そのものを主役に据え、体験から購買への導線を最初から設計に組み込んでいる点が異なる。
なぜ飲食店だけは「一県一店舗」なのか
飲食店・BARに限っては、あえて希少性を持たせる。原則として一県一店舗程度だ。
体験型店舗は「どこにでもある」状態にすると価値が落ちる。「この県にはここにしかない」となれば、それ自体が行ってみたい目的地になる。隣県から来る人がいてもいい。旅行の途中で寄る人がいてもいい。店に行くこと自体がイベントになる。
通常の飲食チェーンが店舗数を増やして利便性を高めるのに対し、この飲食店は希少性を維持して目的地化する。「一県一店舗」は単なる出店制限ではなく、ブランディングそのものだ。
BARも同じ考え方で使える。怪談を聞きながら酒を飲む、特撮について語る、出演者やクリエイターを招く、限定映像を見る——ここでも「酒を売ること」だけが目的ではなく、そのジャンルの世界に入り込む体験を売る。
商品在庫まで循環できる
この仕組みにはもう一つメリットがある。店舗で販売している食品を、飲食店の料理にも使えるということだ。一つの商品について、小売と飲食という複数の販売経路を持てる。
もちろん食品なので、賞味期限・消費期限や衛生管理を前提に、最初から両方で消化できる数量を設計する必要がある。しかしそれができれば、「小売では思ったほど売れなかった」商品を、飲食店で別の形の体験商品として提供し直すこともできる。食品を「売れるか、売れないか」だけで判断せず、小売商品・食材・体験・コンテンツという複数の価値を持たせる発想だ。
「コアなファン」が、聖地をつくる
この戦略の目的は、客数を増やすことだけではない。コアなファンをつくることだ。
オカルトが好きな人、特撮が好きな人、映画が好きな人、ゲームが好きな人——そういう人たちに「このジャンルならヴィレヴァンに行けばいい」と思ってもらう。コアなファンは限定商品を買い、イベントに来て、何度も店舗に足を運び、SNSで発信し、友人を連れてくる。遠方からでも来る。一人の顧客が長期的にブランドと関わる可能性がある。
広く浅く認知を取るのではなく、狭く深く刺さる場所を全国に積み重ねていく。その先にあるのが「聖地」だ。「オカルトが好きなら、あそこ」「特撮が好きなら、あそこ」と言われる場所。普通店舗はその入口になり、特化店舗はジャンルを深く楽しむ場所になり、飲食店はそこでしかできない体験を提供し、BARはコミュニティをつくり、イベントはファンをつなぎ、コラボは新しいコンテンツを生む。そしてすべてが、商品の販売につながっていく。
ヴィレッジヴァンガードが目指すべきなのは、「もっと店舗を出すこと」でも「もっと商品を売ること」でもないのかもしれない。何があるか分からない、という発見そのものを、もう一度強くすることではないだろうか。
その強みを、商品だけに閉じ込める必要はない。店舗にも、飲食にも、BARにも、イベントにも、コラボにも、そしてファン同士の体験にも——全部をつなげる。そうすればヴィレッジヴァンガードは、単なる「遊べる本屋」から、「遊びに行く理由そのものを作る会社」へ変わることができるはずだ。