「ただ、普通にご飯が食べたくて」第56回NHK 佳作

佳作の一つは「会食恐怖症」について。

心を傷つけられて会食恐怖症になることを知りました。

 

以下、略文。

 

昔から、周りの目を必要以上に気にする子どもだった。

僕は集団が嫌いだった。周りの目が怖かった。しかし、周りの大人は親切心から、そんな僕を集団に、時に無理にでも適応させようとした。僕は目をつむり、自分を殺して周りに馴染めるよう頑張ってみると、従順で真面目な子供としての承認をもらうことができた。しっかり者が代名詞、誰からも嫌われず、周りに合わせるのが人一倍上手な学生時代を送っていた。

 

あれは忘れもしない、中学1年生の夏休み。所属していたサッカーチームの夏合宿には、2つの食事ルールがあった。『ご飯を3杯食べ終えるまでは食堂から帰れない』『完食できない人がいた場合は、連帯責任としてチーム全員で罰走する』。

 

どうしてご飯が食べられないの? 自分でもわけが分からなかった。

ある日、食堂には僕とコーチだけが残っていた。
「ご飯はもう食べなくていい。そこにあるおかずだけ食べろ」
皿には、食べかけのウインナー2分の1本だけが乗っていた。

怒鳴り声が飛ぶ。
「なんでそれだけが食えねえんだよ! こっちは早く部屋に帰りてえんだよ!」
すでに会食場面での緘黙症状が出ていた僕は何も反応できず、この期に及んでもただ吐き気を我慢することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

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受賞のことば
このような賞を頂戴し大変嬉しく思います。執筆にあたり、私の経験が障害に該当するのか非常に悩みました。また心と向き合い、開示することに想像以上の不安感が伴いました。そんな中で書き切ることができたのは、周囲で支えてくれる方々の存在があってこそです。この場を借りて感謝を伝えたいです。会食恐怖症は見えづらい障害です。でも、どうにもならない気持ちを前に苦しんでいる人は確かにいます。本エッセイが少しでもお役に立てれば幸いです。



選評
まだよく知られていない「会食恐怖症」。私自身もその名称から誤解していましたが、この文章を読んで、考えを改めました。完食できない人がいるとチーム全体で罰を受けるという指導。自分を責め、逃げ道を見つけられずに追い詰められる様子がいたたまれませんでした。多様性を認めることと真逆のことが行われている現実に驚かされます。人によって作り出された障害ですが、逆にSNSで情報を得る、仲間を作るという、これも人によって改善がもたらされています。この障害を重くするのも軽くするのも人との関わりが大きいです。人知れず苦しんでいる人や指導者に、この文章を読んで欲しいものです。(鈴木 ひとみ)