私(母)
私の都合のいい時に
友達のハルに
あまったペンキを届けるねと
伝えてあった。
そのうちにハルの家の
玄関の横に
ペンキ缶を置いておくね、と。
仕事が休みの日に届けに行った。
行ったら、仕事で不在だと思っていたハルが、玄関の横に置いてある
プランターをしゃがんで
いじっていた。
サラダ菜ですって。
使いかけの余ったペンキ缶は
ハルに手渡しすることが出来た。
ハルは私の顔を見て
「お昼食べた?
残り物ばかりなんだけど
あがって食べていってよ。」
と言ってくれた。
だけど私はこの後まだ予定がいくつかあるし、急に訪ねて食事をご馳走になることにも遠慮してしまう。
そうして伝えたのだけど
ハルはちょっとあがっていきなよ
言ってくれたので
そうすることにした。
かぼちゃと玉ねぎの炒めたもの
しらすおろし
大根と大根葉のお漬物
もつ煮
セロリと油揚げの煮浸し…
あと他にもこまごまと
ハルは冷蔵庫を開けて
ラップされた残り物のお皿を
出してテーブルに並べていく。
小さめのホットプレートも
テーブルに出して
卵もふたつ焼き始めてる。
その横にウインナーも乗せてる。
コンロで温めているお鍋は
トマトとパセリと玉ねぎの
きれいな中華スープだった。
「加熱されたトマト好き」
「私も好き」
話しながら。
ご飯は炊飯器から
よそってくれていた。
ふたりでテーブルに座って
ホットプレートの目玉焼きが
焼けていくのを眺めながら
食べ始めた。
焼けた目玉焼きとウインナーは
ご飯茶碗にハルが乗せてくれた。
目玉焼き丼、ウインナー添えだ♡
こないだ会った時に、ハルは
鼻の横に悪性腫瘍のある猫の
心配をしてた。
その猫を目で探したけど
見当たらない。
「こないだ(私と)会ってから
1週間後に悪性腫瘍の猫は
死んじゃったんだ。」
とハルが言った。
笑ったり神妙になったりして
ふたりで目玉焼き丼と
残り物だというお惣菜を食べた。
おいしい、おいしい。
ハルの家での残り物の食事は
レストランでは味わうことができない家庭料理の気取らない
おいしさがあった。
レストランでは味わえない
くつろげる居心地の良さがあった。
10代の終わり頃かな、
テレビで、樹木希林さんが
「私は愛する人の為に
おいしい料理を作り終えたら
ラップして冷蔵庫へしまいます。
愛する人には、
『残り物だけど食べて。』と
提供します。
気軽にくつろいで欲しいから。」
というようなことを言ってた。
20歳にもなってない私には
それは解せなかったな。
なぜ出来立ての美味しさを
味わってもらわないのか?
と思った。
ハルの家の残り物を
ご馳走になって、
樹木希林の言ってたこと
わかった気がした。
食べ終えて
私がお皿を洗い
それをハルが拭いて
食器棚へしまいながら
「今朝、白菜キムチを
漬けたの。漬けたばかりだけど少し持って帰りなよ。」
と、漬けてある大きなバケツから
取り出してくれた。
手作りキムチのお土産付きだ♡
残り物のお惣菜は、私にとって大ごちそうだった。
とてもくつろいだ「時」を過ごせた。
周りの色づいた街路樹を
眺めながら運転して帰った。
きれいだ。