長女は文章を読めないくせに気に入っている本がある。



毎日作業所に二冊から三冊選んで


小さな手提げ袋に入れて持って行く。




ある時、帰宅時間に大泣きで電話をかけてきた。


「無いよ~~!本が無いよ~」



持って行ったお気に入りの本が袋ごと無いそうだ。





さかのぼる事半年くらい前、


「歯磨き粉が無いよ~」と電話をかけてきた。


「探せばどこかにあるよ」


そう言って電話を切った。



どこかに置き忘れたのだろうと全く気に留めずにいた。



何日か経ち再び電話。


「無いよ~歯磨き無いよ~」


「またぁ?ちゃんと探しなよ」



それから度々家で「歯磨き粉ない」と言うようになった。


4月に新品の歯磨き粉を持って行ってまだ間もない。


「まだ無くなるわけないでしょ。」



何度かそう答えていたのだが


あまりにもちょくちょく言うので本当に使い切ったのかと思い


新しいものを持たせた。



「お茶無いよ~」とかけてきた時もあった。


以前は水筒を持って行ってたが、本人がペットボトルがいいと言うので


今は毎日ペットボトルのお茶を持って行っているのだ。



「無くなるわけないんだから良く探しなさい」



ちょうど私の体調が悪い頃。


いちいちその位で電話よこさないでーと思ってた。



それにしても最近随分物忘れが多い事!


面談かあったので、何気なく職員に言ってみた。


「最近良く物が無くなりますね」


「あ~、そうですね~」


それで終わってしまった。



その後も、「歯磨きない」だの「お茶ない」だのと電話あり。


帰宅してからは毎回何も言わないのでその都度職員が


探してくれたりして見つかっているんだと思う。



再びお茶が無いと電話があった日、帰宅した長女に聞いた。


「お茶あったの?」「あったよ~」


「何処に?」 「ゴミ箱」


「ゴミ箱に入ってたの?」 「そうです」



作業所の利用者の誰かの仕業?なんて事も頭をよぎったりもしたが


それなら職員も気が付くはずだし・・・。



でも、やっぱりこれはちょっとおかしい。


誰かがやってるとして、職員が誰も気が付かないものなのか。



物が無くなり出してから約半年。


同じ様に障害を持った人を疑うのは心苦しい。


が、他に考えられない。


言うべきか言わざるべきか、


しばらく悩んでいた所に長女からの電話。



彼女を迎えに行く事になり


いい機会なので長女と一緒に居た職員二人に言った。


「誰かがやってるんですかね?」


「そーですねぇ・・・」


「誰か分からないんですか?」


「はぁ…申し訳ありません」


何ともバツの悪そうな顔。


「今度から職員の方で荷物を預かります」




次の日帰宅した長女に聞いた。


「本あった?」 「ないよー」


「見つからないの?」 「エプロン出てきた」


「エプロン?無かったの?」 「そう、出てきた。歯磨き無いよー。」


「なに?歯磨き又無いの?」 「うん、そう」


「歯磨きとエプロンが無くてエプロンだけ出てきたの?」


「そう、歯磨き無いよ~」



聞いてない・・・・・・。


彼女を迎えに行った時にはすでにもう無くなっていたはずの物。


何故話してくれなかったのだろか。



無性に腹が立ってきた。



施設長に連絡をしてどうなってるのかと聞いた。


何故気が付かないのか。

何故全く報告が無いのか。


「申し訳ない」と言うばかりだ。


次の日には職員から連絡が来た。


利用者の誰かが環境の変化やストレスなどから

そういった行動にでてしまったのではないか、と。

そしてターゲットになったのが長女だと平然と言う。


半年間、職員が誰一人として

長女の物が無くなるという事に対して

私に何の連絡もよこさず

そしてなんの対処もしてこなかった。


彼女の物を盗んだ者の方が同情されるのか。


歯磨きセットはこちらで買おうかと話しておるんです。

って、違うでしょ。


無くなった物に関してはこちらで弁償します、って言えないのかな。


これから朝来たら職員の方で荷物を預かりますからって


それで解決なんだね。


こんな管理体制でいいのか。


物凄く残念だ。



もっと早くに気付かなかった私もいけないのか。



一か月経っても歯磨きセットを買う気配がないので


結局買って持たせた。


本も歯磨きセットも出てきやしない。



今すぐにでも辞めて別の所へ通わせたいが


そうすんなりと見つかるはずも無く


気持ちが滅入る。