昔むかし、20数年前の秋。

私はとある田舎の町で生まれた。

カラオケもゲームセンターもない、あるのは自然だけの田舎町。そんな場所にある家に生まれたことで、私の人生を大きく左右することになるとは、まだこの地に落ちて数日も経っていない私は知る由もなかった。


生まれて数年間はまだ幸せだったと思う。待望の第一子ということで、両親も祖父母も大層喜んだという。その頃の記憶は残ってはいないが、当時の写真を見ると幸せそうに笑っている自分の姿が写っている。公園や動物園に連れて行ってもらい、満面の笑みを浮かべる私の姿。


しかし、私が写っている隣に写る大人たちのぎこちない笑顔、そして、この家のおかしさに気づくのは幼稚園の年長さんの頃だった。毎日家中に響く怒鳴り声とドンっ!バンっ!と大きな物音をたてるドアや家具の音に。