[HRPニュースファイル1213&1225&1231]より転載

日本の海上防衛を考える(1~3)
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文/幸福実現党・政務調査会 佐々木勝浩

■日本の海上防衛を考える(1)――中国サンゴ密漁船の実態
http://hrp-newsfile.jp/2014/1887/


◆中国漁船に命令を出す中国当局

2012年12月16日のフジテレビの番組「特命報道記者X」――「中国の尖閣奪取計画」の中で福建省の漁民に対する取材で注目すべき事実が明らかになっています。

中国漁民には中国当局から無料で「GPS機材」が配られており、すべての中国漁船は一隻にいたるまで中国当局の指揮下に管理されていることです。漁船は必要があれば中国当局と直接連絡も取り合うことが出来るようになっています。

番組では、2010年9月に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突させた事件の時期にも、中国当局からの尖閣諸島で操業する通達が出ていたことが明らかにされました。

さらに尖閣諸島まで行けば燃料代まで中国当局から支給されるということも中国漁民は証言しています。

つまり、今年の9月ごろから11月に小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域に現れたサンゴの密漁の中国漁船も、勝手に来たのではなく中国当局から指示が出ていたと考えて間違いありません。

◆サンゴ密漁船を出す中国の意図

今回の密漁船も福建省から出航しており、小笠原諸島・伊豆諸島まで片道2000キロメートルあり、燃料費だけで300万円ほどかかります。

大船団で一獲千金を狙うにしても過当競争で採算が取れず、しかも日本に数隻が拿捕されて、罰金も課せられる状況下で、それでもやめないというのは、何らかの意図があるからです。

にわかに中国漁船が大船団を組んでやってくることは極めて不自然であり、まとめて燃料費を提供するスポンサー(中国当局のバックアップ)がなければ、どう考えても不可能です。

中国は、11月に自国がホスト国を務めたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)のタイミングに合わせて、多い時は200隻ものサンゴ密漁船を小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域に送りこんだとしか考えられません。

また海上保安庁は尖閣諸島に12隻の巡視船を配備する予定になっており、2隻の新造警備船が石垣島に到着したタイミングで小笠原諸島に密漁船は現れました。(11/6産経「正論・サンゴ密漁の真の狙いは尖閣だ」東海大学教授・山田吉彦氏)

小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域で取り締まっている日本の船は、海上保安庁3隻と水産庁2隻の計5隻だけです。

中国は日本が尖閣諸島と西太平洋の二つの海域(二正面)に中国船を出した場合、海上警備面で日本はどのように対応するか、試したのではないかと考えられるわけです。

例えば、小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域に大船団を出して、従来は尖閣諸島を警備する海保の巡視船を小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域にシフトすれば、今度は尖閣海域の警備が手薄になります。

日本の巡視船の数は充分ではなく尖閣諸島と小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域の二つの海域で同時に100隻の漁船を出されたら対応はできなくなります。ですから早急に巡視船を増やす必要があります。

次回、中国船のサンゴ密漁は鹿児島でも起こっていること、近年は長崎県の五島列島にも中国船は出没しており、その際に中国漁民の不法上陸の不安が広がっていることを紹介します。


◼︎日本の海上防衛を考える(2)――中国漁船は九州でも
http://hrp-newsfile.jp/2014/1920/


◆日本に多大な損害を与えた中国漁船

前回、小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域に現れた中国のサンゴ密漁船は、中国当局の指示で動いていると推定されることを明らかにしました。

もう一方で日本側が考えなくてはならないことは、今回の中国船のサンゴ密漁が多大な損害を日本の漁業に与えたことです。小笠原島漁協・代表理事組合長の菊池勝貴氏はこう語ります。

「(中国漁船は)密漁してサンゴを傷つけるだけでなく、網で海底を荒らしていく。サンゴが育つ場所は魚たちのすみかです。貴重な資源が破壊されると、元に戻るまで数十年はかかると言われています。私たち漁師は、一か月以上も漁ができない日が続き死活問題です。」(12/10朝日)

ちなみにAPECが迫る中で、外務省は中国に配慮して中国船のサンゴ密漁を公表するまで3日間も黙っていました(11/7産経)。自国の漁民の安全や生活より中国への配慮を優先したのです。

今でも遅くはありません。外交ルートを通じて漁民のみなさんへの損害賠償請求を中国側に起こすべきではないでしょうか。サンゴ礁が元に戻るまで数十年に亘る損害を中国漁船は与えたのですから当然のことです。

◆鹿児島にも出没した中国漁船

また、あまり報道されていませんが中国漁船の今回のサンゴ密漁は、小笠原諸島・伊豆諸島周辺海域だけでなく、鹿児島県南さつま市沖の領海でも行われており、先月11月17日、海上保安庁は、サンゴを密漁した中国漁船の船長2人を逮捕しています。(12/6朝日デジタル)

さらに今月12月16日には、沖縄近海で中国船が少なくとも11隻が東に向かって航行しているのが海保の航空機から確認されており、小笠原諸島へ向かうのではないかと警戒を強めています。(12/18産経)

これまで日本の排他的経済水域で違法操業して罰金は400万円以下、担保金と呼ばれる罰金を関係者が支払うことを保証する書面を提出すれば、早期に釈放されています。

その書面は中国当局が出しているのかどうかわかりませんが、これでは一獲千金を狙う中国漁民が大量に押し寄せるのは当然です。中国漁民にとってなんのリスクもありません。

さすがに日本政府も外国漁船の違法操業の罰金を400万円から3000万円に引き上げるなどの改正法が11月19日の参院本会議で可決され27日に公布、12月7日に施行されることになりました。

なお同様の違法操業は、中国だけでなく北朝鮮のイカ釣り漁船も能登半島沖、日本海の排他的経済水域境界海域で操業しており、今年、北朝鮮漁船の数は昨年の3倍に急増していることも記しておきます。

確認された北朝鮮漁船は延べ約400隻、うち9割が日本の排他的経済水域内に進入しており(11/27朝日新聞デジタル)、こうした事実もあまりマスコミは報道していません。

◆中国漁民の不法上陸も

過去にさかのぼると2012年7月、当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化の意思を示した直後に、長崎県の五島列島の入り江に台風で避難したという名目で106隻もの漁船が進入しました。

中国はこうした政治的メッセージを、中国漁船を使って送ってくる国であることを知っておく必要があります。

この漁船団は2000人が乗船しており、五島列島では過去に中国漁民が不法上陸したことがあります。

今回のサンゴ密漁でも台風が接近し同様のことが小笠原諸島・伊豆諸島でも起こり得るため島民のみなさんの間にも不安が広がっていました。

台風の接近の際には国際的なルールとして緊急避難を受け入れざるを得ません。中国船が日本の港に入港し不法上陸の可能性もあるため、今回政府は小笠原に機動隊を派遣し巡回させる対応を取りました。

こうした中国漁船の横暴さは日本近海だけではありません。次回、韓国とパラオの例を紹介し、特に軍隊も持たないパラオが中国という大国に対して取った毅然たる態度を紹介します。

◼︎日本の海上防衛を考える(3)――韓国とパラオに現れた中国漁船
http://hrp-newsfile.jp/2014/1932/


前回のニュースファイルでは、中国船は小笠原諸島や伊豆諸島だけではなく、鹿児島や、長崎県五島列島にも現れていることを述べました。

今回は韓国やパラオにも現れた中国船の例を紹介し、特に軍隊も持たないパラオが中国という大国に対して取った毅然たる態度を紹介致します。

◆韓国近海に現れた海賊レベルの中国漁船

お隣の韓国では、2011年11月に同国の排他的経済水域で違法に操業していた中国漁船を約30隻近く拿捕し、その際に韓国側に負傷者も出ています。

中国漁船は韓国国旗などで国籍を偽装し、韓国海洋警察が取り調べをしようとすると、鉄パイプや斧などで抵抗、韓国紙「ソウル新聞」は、「わが海域で違法操業をする中国漁船は海賊と同じレベル」と批判しました。

同年の12月には中国漁船員が韓国海洋官を殺害する事件も起きています。追って説明しますが、中国の漁民には、軍事訓練を受けている「海上民兵」がいます。つまりただの漁民ではないのです。

他にも12月に韓国が中国漁船3隻を拿捕し罰金を徴収して、いずれも釈放しています。

今年2014年、10月にも韓国海洋警察が違法操業をしていた中国漁船の船員らと乱闘になり、その際には中国漁船の船長が死亡しました。

◆中国漁船の違法操業に決然と対応したパラオ

日本や韓国と違い、横暴な中国に対して毅然とした態度を取ったのは人口がたった2万人で、しかも軍隊も持っていないパラオという国です。

ちなみにパラオは、国旗を日本の日の丸をモデルにつくるほど親日国家です。親日である理由は、先の大戦で日本が命を懸けて米軍と戦ってくれたことに感謝しているからです。

さて2012年3月、パラオが排他的経済水域に設けているサメ保護区で違法操業をしていた中国漁船と取り締まりのパラオ警察の間で「激烈な争い」が発生しました。(2012/4/4サーチナ)

その際、発砲により流れ弾に当たった中国漁船の乗組員1人が死亡、残りの5人を逮捕しました。最終的には死亡した1人を除き、25人が「御用」となったのです。その際にパラオ側にも行方不明者が出ています。

中国人漁民25人は同年4月に起訴され、パラオ警察は「中国人漁民は複数の罪に問われている」「裁判の結果、処分が決まる」と言明、中国漁民に対して毅然として司法行為を進める決意しました。(2012/5/28産経)

パラオは台湾を国家として遇しており、中国を正統国家として認めていません。従って、中国は大使館を置くミクロネシアから外交官が特別の手続きを踏んだ上で入国し、パラオ側と交渉せざるを得ませんでした。

「中国外交官は非常に傲慢だった」と、パラオ・トリビオン大統領は当時の様子を地元メディアに語っています。中国の外交官は、漁船乗組員を即時釈放することと、中国人漁船員一人一人と立会いなしで面会を求めてきたといいます。

パラオは、中国に対して遺族への丁重な弔意を示したものの、即時釈放を断り乗組員全員有罪とし、罰金を1千ドルずつ払わせました。中国人船員の拘留は17日間に及び、パラオはあくまでも国際法、国内法に則って立場を貫いたのです。

そして釈放されると中国はチャーター機を自ら用意して全員を連れ帰りました。

中国の圧力に屈しなかったことについて大統領は、「はっきりしているのは、ここはパラオの領海だ」との趣旨を、地元メディアに語っています。 (参考【月刊WiLL2011年10月号】 総力大特集 図に乗るな中国!)

◆中国船衝突に対する民主党政権の対応

軍隊も持たないパラオの毅然とした姿勢と比べて、1億人の人口を誇り自衛隊も持っている日本はどうでしょうか?

民主党政権は、2010年9月、尖閣諸島で領海侵犯し海上保安庁の巡視船に体当たりした中国漁船船長を、あくまで沖縄の地方検事の判断だとして釈放を許し、国家としての国防の責任を放棄しました。

しかも、船長を迎えに来日した中国政府高官のために夜中に石垣空港を開港させ、日本の立会いなしで漁船船長との面会を許し、最後は日本側がわざわざチャーター機を用意し食事付きで漁船の乗組員を中国まで送り届けたのです。

当時の菅首相は、口をつぐんだまま、中国に何も発言しませんでした。

こうして中国の無法漁船を事実上、無罪放免したことが今日の中国のサンゴ密漁を許すことになり、日本の漁民のみなさんを危険に晒していることにつながっているのです。

パラオが独立国として自国の主権を守るために大国中国に取った毅然とした態度を日本は学ぶべきです。

(補足)パラオは、1994年独立した時に米国と「自由連合盟約」を締結。期限付きで全軍事権と、外交権の内、軍事権に関係する部分を米国に委ねています。盟約に基づき、国民の一部は米国軍人として入営しています。

中国もパラオとの交渉が決裂すれば、米軍が出てくることになるので、下手なことはできません。ここからも日米同盟の重要さが分ります。

次回、中国漁船を戦略的に動かし、南シナ海を「中国の海に」してきた戦略を明らかにします。それと同じ方法で今度は東シナ海、西太平洋まで「中国の海」にしようとしているのです。
(つづく)
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