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より転載

「借金1000兆円? それがどうした」(Webバージョン) - 編集長コラム

(2013年9月15日 Webバージョンにて再投稿)

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(1)日本の財政破綻はあり得ない

「日本は世界一の借金大国」?

 安倍晋三首相が迷っている。予定通り来年4月から消費税率を8%に上げるべきかどうか。
 最も増税したい人たちは財務省だ。麻生太郎財務相に「増税は国際公約」と言わせ、日経新聞には「景気は底堅い」と書かせる。
 財務省の言い分は、「国の借金は1000兆円を超えた。世界一の借金大国だ。増税しないと財政破綻してしまう」というものだ。
 財政破綻とは、政府として借金を返せなくなること。その危機を旧大蔵省は1980年代初めから言い始め、95年には当時の武村正義蔵相が「財政破綻宣言」を行った。このときの政府の借金残高はたかだか225兆円。
 かれこれ30年も同じことを言い続けながら、その通りにならないということは、財務官僚自身もさぞ不思議に思っていることだろう。


財政破綻とは「外貨建て国債の返済不能」

 安倍首相の2代前の菅直人首相は在任中、「日本もギリシャの二の舞になる」と危機をあおっていた。確かに日本の国債残高の対国内総生産(GDP)比は約250%で、事実上財政破綻したギリシャが約150%。「日本が財政破綻しないほうがおかしい」という財務省や菅氏の主張は理屈が通っていそうだが、実際には、日本とギリシャの借金の中身はまったく違う。
 そもそも財政破綻というのは、「外貨建て国債(外債)の返済不能」のことを言う。破綻したギリシャの国債は、ユーロ建てで外債の一種。2001年に財政破綻したアルゼンチンの場合も、ドル建て国債を返せなくなったものだった。
日本の国債はすべて円建て。「外債ではない」という一点で、日本の財政破綻はあり得ないことが分かる。


政府は企業や家庭と違い、お金が刷れる

 円建て国債の場合、日本政府の子会社である日本銀行がお札を刷って国債を買い取ることができる。庶民感覚ではすんなりとは理解しにくいが、中央銀行にお金を刷らせれば、政府は借金返済や利払いから解放されるという“マジック"が使える。
 一自治体でも一企業でも一家庭でも、お札を刷ったら通貨偽造罪(刑法148条)で捕まって刑務所に放り込まれる。日銀がお金を刷っても当然、罪にはならない。この仕組みがあるため、政府の借金と、その他の自治体や一般企業や家庭の借金について、比較してもほとんど意味がない。自国通貨建ての国債は、「最強の借金」で、他の事業体の借金とは比べものにならないのだ(もちろん無制限にお金を刷れるわけではないが、年4%程度以内の健全なインフレ率の範囲内ならば問題ない)。
 ギリシャやアルゼンチンのような外貨建て国債(あるいは共通通貨建て国債)ではこの“マジック"が使えない。ユーロやドルを勝手に刷ったら「犯罪」になるので、破綻せざるを得なかった。


自国通貨建て国債では破綻しない これは歴史上の「法則」だ。

 例えばフランスのナポレオン軍と戦った後のイギリスは、国債残高がGDP比の3倍近くに達した。現在の日本の借金財政以上の“ひどさ"だが、イギリスは財政破綻しなかった。なぜなら、自国通貨のポンド建て国債だったからだ。
 一方で、第二次大戦後のイギリスは事実上の財政破綻に陥った。GDPの6割を戦費に投入し、それをアメリカからの借金でまかなった。アメリカに頼み込んで出してもらった借金なのでほとんどがドル建てで、戦後、イギリスは海軍の大艦隊を解体して空母や艦船を売り払い、借金返済に追われた。
 このように、政府の借金は、自国通貨建てか外貨建てかによって、天と地ほどの差がある。


(2)日本の国民も政府も「世界一のお金持ち」

勤勉に稼ぐ日本国民が支え

 その差を別の言葉で言えば、「国民がよく働くかどうか」の差だろう。
 ギリシャ国民は、自国内で消費するモノを自前で十分供給できず、他国からたくさん買っている。国民があまり稼げないと、政府の税収は上がらないし、国民の貯蓄も少ない。赤字の政府が借金しようとしても、国内で資金調達できないから、海外の金融機関から借りるしかない。
 日本国民は、天然資源などは別にして、大半のモノを自前で供給できる。加えて、製造業を中心に他国にも売ってお金を稼いでいる。それが1500兆円にのぼる個人金融資産として積み上がり、民間銀行や保険会社、ゆうちょ銀行などを通じて国債に投じられている。日本人の場合、各家庭は金融資産を預貯金で持つ傾向があり、その額は計800兆円余り。これはアメリカの全家計の持つ預貯金の1・5倍、ユーロ圏の全家計の持つ預貯金の1・2倍にのぼる。この「現ナマ」が日本国債をしっかりと支えている。
 財務省やマスコミは「国民1人当たり約800万円の借金!」と大騒ぎするが、「1人800万円も政府に貸しているすごい国民」という話にすぎない。
 日本国民は政府だけでなく、海外にもお金を貸している。その金額は世界最大なので、日本は「世界一のお金持ちの国」だ。
 勤勉に働き、稼ぎ続ける国民に支えられた日本の国債は、世界で最も破綻から遠いところにある。


日本政府は資産が借金を上回る

 国民だけではなく、実は政府も「世界一のお金持ち」であることは、日本人にも他国の人にもほとんど知られていない。政府が持つ米国債など金融資産を差し引いた純粋な借金(純債務)は300兆円余り。道路や建物など固定資産についても差し引けば借金はゼロになって、資産のほうが多くなる。アメリカの場合、借金から資産を引いたら、借金のほうが1400兆円(14兆ドル)以上も上回っている。
 財務省がいくら「1000兆円の借金がある!」と声高に叫んでも、世界からは「日本政府の借金は、莫大な資産からすれば、まったく問題となる額ではない」と見られている。その結果が、1%を下回る世界最低水準の日本国債の長期金利。つまり、日本政府はケタ外れに安いコストで資金調達できる。投資家にとっては、世界で最も安心して投資できる金融商品で、人気が高いことを意味する。


(3)なぜ財務省は財政危機をあおる?

 不況下に緊縮財政と増税を強行してきた過ち

 これらの動かしがたい「事実」は、実は、2002年に海外の格付会社に対して出したレポートで財務相自身が言っているのと、ほとんど同じ内容だ。そのレポートは現日銀総裁の黒田東彦財務官の名前で出されているので、今は消費税増税を後押しする黒田氏が「日本は財政破綻しない」ことを百も承知だということになる。
 では、なぜ財務省はありもしない財政危機をあおるのか。
 歴史を振り返れば、近代以降の各国の財政当局は、深刻な不況下に緊縮財政や増税に突き進む過ちを繰り返してきた。
 1929年のアメリカ発の世界恐慌後、日本の浜口雄幸内閣は緊縮財政と金融引き締めを採用し、マイナス成長の続く昭和恐慌に突入した。アメリカのフーバー大統領は株価大暴落後、銀行や企業の倒産を放置。落ち込んだ財政をまかなうため消費税導入を強行したが、1年後にGDPは半減し、1200万人もの失業者を生んだ。
 近年では日本の橋本龍太郎首相がそうだ。バブル崩壊後の景気低迷の中、97年に消費税を増税。その後の15年間でGDPが50兆円以上落ち込み、平均世帯年収も100万円以上減った。
 バブル崩壊後は家計も企業も金融機関も、みな借金返済に必死になってバランスシートの健全性を高めようとする。そのため、お金を使うことに慎重なケチケチ・ムードが世の中を覆う。その中で政府も同じように借金返済したくなってしまうのだろう。しかしその結果は、国民の仕事や所得がみるみる減る深刻な長期デフレ不況という手痛い反作用だった。
 モノが売れないから、値段は下がる。お金を持ち続けるほど得になるので、さらにモノは売れない。そうやって経済が縮小していく。それがデフレ不況だ。その中で増税したら、モノはもっと売れない。デフレ期に増税は絶対にしてはならない、というのが歴史の教訓であり、鉄則だ。


世界を覆う「貧乏神思考」

 しかしその鉄則が忘れ去られ、2008年のリーマン・ショック以降、世界恐慌後の日米やバブル崩壊後の橋本内閣のような「貧乏神思考」が世界に広がっている。
 イギリスは2011年1月、財政を健全化しようと、付加価値税(消費税)を17・5%から20%に引き上げた。リーマン・ショックから回復軌道にあった英経済はマイナス成長に逆戻り。付加価値税だけでなく、所得税、法人税の税収が減り続けた。
 ユーロ危機の中にあるEUも、基本的に緊縮財政を加盟国に求めている。2013年1月に発効した新財政協定で、加盟各国は財政赤字をGDPの0・5%以内とするよう義務付けられた。これでは機動的な景気対策を打とうとしても、手足が縛られてしまう。
 アメリカは、巨額の財政赤字をめぐって民主党と共和党が対立するのが年中行事だ。オバマ大統領が景気対策として老朽化した高速道路などのインフラ整備を進めているが、「小さな政府」を唱える共和党議員の多くは、こうした財政支出に強硬に反対している。
 世界経済の安定的な成長に責任を負うはずの国際通貨基金(IMF)も、借金返済の強要が大好きだ。今年8月にも日本への政策提言をまとめ、消費税引き上げについて「計画通り進めることが重要」「15%まで引き上げるべき」と要求した。要らぬお節介とはこのことだ。財務省はそれを笠に着て、消費税増税を強行しようとしている。
 このように日本も世界各国も、政治の真ん中に「貧乏神」がどっかりと腰を下ろし、緊縮財政と増税を推し進めている。そのため、世界恐慌や昭和恐慌後と同じように、日本、アメリカ、ヨーロッパで経済規模が縮小していくデフレ不況が起こっている。


(4)国債はもっと発行できる

高橋是清とルーズベルトの“無茶な"積極財政


 1930年代の恐慌から日米の経済を救ったのは、それとは正反対の政策だった。
 日本の高橋是清蔵相と、アメリカのルーズベルト大統領はそれぞれ、中央銀行に国債を買い取らせ、財政支出を一気に拡大して仕事を創出。縮小経済からのV字回復を果たした。
 高橋是清は回顧録の中でこう振り返っている。「借金が増えていく結果はどうなったかと言うと、一面、産業は大いに進歩し、国の富も増えたので、国債の増加も苦にならない」「国民の働きが増せばここに富ができる。前の借金ぐらい何でもない」
 高橋是清は、富(名目GDP)が増えれば税収が増えるので、一時的な借金は何ら負担ではないと割り切っている。
 ルーズベルトも同じ考え方を採った。ルーズベルトは第二次大戦の戦費も含め支出を何倍にも増やした。その結果、GDPは10数年で4倍となり、戦後の借金返済の負担は小さなものとなった。
 一時的であれ、なぜこんな無茶ができたのかというと、先に触れたように、政府と、家計・企業・金融機関とでは、借金に堪えられる力がまるで違うからだ。自国通貨建ての国債は、中央銀行が買い取ることができる。
 政府の力は、いざとなったら異常に強い。だからこそルーズベルトは「我々が唯一恐れるべきことは、恐怖それ自体である(the only thing we have to fear is fear itself.)」と戒めた。高橋是清も「1足す1が2、2足す2が4だと思いこんでいる秀才には、生きた財政は分からないものだよ」と、財政の健全性ばかりを考える視野の狭い官僚たちを叱った。


今の日本でハイパーインフレはあり得ない

 日米欧では、企業も家計もお金を使わず、投資や消費が減って、仕事が少なくなくなっている。ここから抜け出すには、高橋是清やルーズベルトのように、政府がお金を出して仕事を創り出すしかない。ルーズベルトが任期中にGDPを4倍増させたように、政府が成長分野に投資するなら、もっと大量に国債を発行して構わない(アメリカと日本は一部それをやってはいる)。
 するとマスコミは「ハイパーインフレになる!」「1万円札が紙クズになる!」と騒ぎ出す。今の日本のメディアが既にそうだ。
 しかし、戦争などで生産設備が壊滅しないかぎり、お金の価値が暴落することはまずない。ハイパーインフレは、お金の価値が1年で100分の1ぐらいに下がることを言う。つまり、1万円札が以前の100円硬貨の価値になってしまうということだ。
 ただ、こういう激変は、戦争や内戦、あり得ないような失政で国内の工場や農地が破壊され、極度のモノ不足に陥らない限り起こらない。第一次大戦に敗北したドイツは、ルール地方などの工業地帯をフランス軍に占領され、生産力をほとんど失ったために、日用品の値段が1年で何億倍にもなった。
 国内の生産施設が壊滅的な打撃を受けた第二次大戦の敗戦直後の日本では、ハイパーインフレまではいかないものの、3年間でお金の価値が100分の1になった。しかし、現在の日本であれば、中国が核ミサイルを東京や大阪に何発も撃ち込まない限り、そうした事態は考えられない。
 ある経済学者によると、日銀がお金を刷りまくって、国民1人当たり1億円を配ったらハイパーインフレになるそうだ。ハイパーインフレを起こすには、そんなトンデモ政治家の登場を待つしかない。


世界の富を創り出す「繁栄思考」を

 日本には製造業を中心に、敗戦直後とは比べものにならない生産力がある。勤勉に働く国民もいる。冒頭述べたように日本の財政破綻はあり得ないし、かつ、平時のハイパーインフレはまずあり得ない。今ほど日本政府が国債を大量に発行して、新たな仕事や事業を創り出すチャンスはない。
 日本政府として人やモノの流れを加速する交通インフラや未来性のある産業に大量の資金を投じるならば、世界的な景気低迷を吹き飛ばせるし、自動車や電機などに代わる21世紀の新たな基幹産業を創り出すこともできる。要は投資効果の問題だ。
 GDPを1割大きくするだけで、消費税を5%増税する分ぐらいの税収は、法人税や所得税として簡単に返ってくる。
 消費税増税を強行したい人たちは、「子供の世代に借金のツケを回すのか」と訴える。この時点で消費税を増税したら、各世帯の所得がさらに減ると同時に、医療や年金をまかなうために消費税は20%、30%へと上がっていく。
 今、日本が直面しているのは、子供たちにそうした「重税国家」を残すのか、さらなる繁栄社会を残すのかという選択だ。それは日本だけの問題ではなく、100億人になろうとする世界の人口が食べていけるだけの「稼ぎ口」を地球規模で創り出していかなければならないというチャレンジでもある。
 結局は、社会保障のために重税を課す国家をつくるか、人類の生活を支えるために経済規模を何倍にもしていこうとするかのビジョンと志の問題だ。
「借金1000兆円? それがどうした」――。安倍首相には、そのぐらいの気概が必要だ。アメリカ大統領も、世界最強の軍事力の支えがあれば、もっとドル札や国債を刷る余裕はある。今こそ、「貧乏神思考」ではなく、富の創造を肯定し実現する「繁栄思考」が求められている。
(綾織次郎)


「国の借金」というマスコミの印象操作をサザエさんで解説


日本政府は一体どこからお金を借りているのか?


財務省「日本が破綻するわけねーだろ!」


日本のどこが借金大国? 1/2



日本のどこが借金大国? 2/2



【KSM】国の借金1000兆の嘘 実は借金は減っているんですw 三橋貴明氏