http://sankei.jp.msn.com/science/news/140621/scn14062118000001-n1.htm
より転載

13歳少年になりすまし成功 人工知能が人並みの会話力を獲得
 
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2014.6.21 18:00
 
約65年前に提唱された、人工知能の知性を測る有名なテストで、初の“合格者”が今月誕生した。テストは、人間と判別できないほど高度な会話ができるかどうかを確かめる内容。米国在住のロシア人、ウラジーミル・ヴェセロフ氏、ロシア在住のウクライナ人、ユージーン・デモシェンコ氏が開発した「ユージーン」が見事に質問者をだました。昨年4月には、人工知能が人間の現役プロ棋士(団体)に初勝利したが、あらゆる面で、人を超越する日も遠くないのか。
 
■65年前に提案された「チューリングテスト」
行われたのは「チューリングテスト」と呼ばれる。人工知能と本物の人間を相手に、キーボードを通じた会話(チャット)を5分間行い、どちらが人工知能であるかを見破られなければいいというもの。人工知能と本物の人間とを相手に、人工知能が質問者の30%をだますことができれば合格だ。計算機学者で第2次世界大戦で暗号解読者として活躍した英国のアラン・チューリング氏(1912~54)が1950年、「機械は考えることができるか」というテーマで、人工知能の一つの到達目標として設定した。
 
今月7日に英国の王立協会(ロンドン)で行われたテストで「ユージーン」は、30人の質問者のうち10人、つまり33%をだますことに成功し、目標値をクリアした。主催した英レディング大で客員教授を務めるケビン・ワーウィック氏は、「人工知能の分野では、チューリングテストほど、象徴的で議論が絶えないテストはない。今回のマイルストーンは、最もエキサイティングな出来事として歴史に残るだろう」としている。
 
■自然な動きや反応をするロボット

 国内の人工知能を専門とする大学教授によると、「一般論として、あらゆる質問に対して人間と同じように答えられるようになったとしたら、すごいことだ。もしも、神のようにあらゆることが分かっていれば、どんな問題に対しても正しい答えが出せるが、実際には、人間も人工知能も、所詮は不完全な知識から新しい事象に対して最も合理的な答えを導かなければならない。人工知能が本当に役立つには、分からない部分を“人間のように”断片的な知識や経験から推測できる能力が求められる。応用面では「例えば、ロボットにより自然な反応をさせるようなことが可能になる」

特にチューリングテストに関して言えば、13歳の少年になりすますのは、大人になりすますよりも、高度な部分が要求されるという。たしかに、「JFKって何だと思いますか」という質問に対する大人の反応はおおかた予想できるが、少年だと「Jはジャパンと思うけど…。あっ、AKBの仲間かな? アメリカの大統領ですか? するとKが名字ですね」というような勢いのある『推測力』を見せなければならず、本物の13歳の少年のふりをするのはとても困難だろう。

 ■テストされているのはどっち?

 難度は高いのだが、同時に、このテストはジャッジする側にも非常に高い能力が求められる。具体的には、なまじ人工知能の行動パターンを知っていて、枠にとらわれがちな人工知能学者を用意するよりも、あまりにも「ばかげた質問」をする素人の方が、よほどボロがでやすく、人工知能にとって手ごわいのだという。

 果たして、今回の功績はどれほど価値を生むのか。解説してくれた教授は、まず、社会に大きな影響を与えそうなものかというと、それほどではないだろうと冷静にみる。あくまで、人工知能学会の内部での1つの基礎研究における成長に過ぎないという立場だ。さらには、実際にどのような会話のやりとりがあったかが開示されていないので、厳密な意味で「チューリングテストに合格した」といえるのかは懐疑的だともいう。

というのは、さきほど挙げた会話例のように、人工知能かどうかを見破るには、質問者にも、かなりの知能が求められる。今回のイベントは、うがった見方をすると、人工知能の知能の高さを示したのではなく、質問者の知能の低さを単にさらけ出しただけかもしれない。成功か否かが決着するまでには、まだ時間がかかりそうだ。

◇今月28日には、人工知能をテーマとしたジョニー・デップ主演の映画「トランセンデンス(超越)」が公開される。凶弾に倒れた天才科学者の頭脳を人類の役に立てようと、死ぬ間際に妻がスパコンにアップロード。しかし、その頭脳は予想外の行動に…。人工知能はいずれ人間を超越するのかというテーマに挑むSFホラーだ。

「トランセンデンス(超越)」
公式サイト