◆マクドナルドが始めた60秒ルール導入に見る、外食産業の生き残り戦術!

ダイヤモンド・ザイ 1月5日 14時21分配信
 
先日、日本マクドナルドホールディングスが、客が注文をしてお会計を終了してから60秒以内に商品を届けることができない場合に、ハンバーガーの無料券を渡すサービスを始めるという発表があった。

 1月4日から31日までの11時~14時の間という、期間および時間帯限定のサービスであるが、あまり他では見ないサービスであり、その狙いや効果に関心が集まっている。

● 回転率上昇で売上げアップを目指す

 かつて、宅配ピザが、30分以内に届けられない時には商品を無料にするという取り組みをやっていたが、今ではもう見なくなってしまった。ただ、いずれにせよ、今回のマクドナルドやかつての宅配ピザの取り組みが目指しているのは回転率の上昇である。

 各店舗のカウンター数や宅配用のバイクの数は限られている。売上を伸ばすには、客単価を引き上げるか、オーダー数を増やすしかない。今まで90秒で商品を届けていたところを60秒に短縮できたなら、単純計算すると売上は1.5倍になる。もしオペレーション上のコストが変わらないのであれば、増えた売上はそのまま利益となる。

 マクドナルドを始めとする飲食店の多くは、近年は客単価の引き上げに注力して来ていた。マクドナルドの場合、以前は100円メニューを大々的にアピールしていたことがあるが、今ではメニューに載ってはいるもののあまり目立たず、むしろ店頭では500円はゆうに超えるセットメニューがずらりと目立つところに並べられている。

 しかし、ここ最近は客単価の上昇が頭打ち状態となっており、既存店売上高も対前年度比で100%を割るような状態が発生しつつある。そこに対してのテコ入れ、あるいは、実証実験をしようというのが今回の試みであろう。

● メニュー数の絞り込みも選択肢となる

 マクドナルドはこれ以外でも携帯で事前にオーダーできるサービスを開始したり、客が店頭のカウンターで迷う時間をなくすためにカウンターからメニューを撤廃するなど、客からオーダーを受ける時間の短縮化に懸命である。それは全て回転率の上昇のため、と言える。

 今や事前に集めた豊富なデータを基に、マクドナルドに来店する客のオーダーの傾向を分析し、例えば、「見た目は30代男性、スーツ、1人で来店」など、その顧客が注文するであろう商品を事前に予測することもある程度は可能であろう。

 そうなれば、さらに商品を提供する時間は短縮化できるかもしれない。おそらく将来の行き着くところは、そういう姿だと思われる。今回の60秒の取り組みはそういう最終型に向けての一里塚と思われる。

 その他、客のオーダーする時間を短縮化するには、メニューのシンプル化があげられる。メニュー数が少なければ少ないほど、迷う必要はない。

 マクドナルドでは定期的に新商品を登場させているが、一方で、オーダー数の少ない商品に関しては提供を止めるというような施策も今後は考えられるかもしれない。

● 吉野家が自販機オーダーを導入したらどうなる? 

 さて、今回のマクドナルドの取り組みから、今後の注目すべき企業として浮かぶのは吉野家である。同業他社のなか卯やすき家等と比べると、メニューが牛丼中心型のシンプルな構成となっている。顧客がオーダーに迷う時間は短縮化できる。

 一方、オーダー方法は松屋やなか卯が自動販売機方式を採用している中で、吉野家は対面型である。

 たとえばなか卯に次回訪問された時にご覧頂きたいのであるが、客が自動販売機でオーダーをした瞬間に、キッチンにその内容が伝わる。客が席に向かおうとする時にはもうオーダーを作り出している。これが吉野家の場合は、客が席についてからオーダーを聞くので、どうしてもオーダーにかかる時間は長くなる。

 自販機オーダーは無機質な側面があるため、一概に自販機オーダーの方がいいとは言い切れないが、対面販売の吉野家はオーダー時間の短縮化をはかる余地があると言える。もっとも、それに伴う設備投資のコストは発生するが、回転率が非常に重要な業態ゆえに検討に値するはずである。

● ユニクロの立ち位置はマクドナルドと百貨店の間

 このように考えて行くと、人口減、デフレの日本においては、回転率をあげることで売上が上げられる業態というのはまだ魅力がある。一方、例えば百貨店のように、回転率が収益ドライバーではない小売業の場合は、引き続き厳しいかもしれない。

 百貨店は、客にフロアを回遊してもらってナンボの世界であり、客が目的とする商品が曖昧であればあるほど、回転率とは相容れない世界となってしまう。

 おそらく小売業では、ユニクロがマクドナルドと百貨店の中間に位置すると思われる。商品数を絞りつつ、ヒートテックやダウンジャケット等目玉商品を作ることで、客にある程度事前に目的商品を意識させ、一方、いざ来店したら回遊してついで買いをしてもらえるような販売売り場の構成になっている。

 今回の60秒キャンペーン、これによってどの程度売上が伸びたかの実験結果が登場すれば、マクドナルがどれほどまで既存店売上高を伸ばせるかのシミュレーションにもなる。そして他の飲食業にとっても、回転率の上昇はこれまで以上に検討すべき事項の1つとなるだろう。


Yahoo!ニュースより転載