- Crimson / Red/Icebreaker Records
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プリファブ・スプラウト、4年ぶりの新作。
とは言っても、前作「Let's Change The World With Music」は今から20年近く前にほぼ完成していた作品。それがなかなかリリースされず、やっと日の目を見ることができたわけで、こういうことが良くあるのがパディ。ほかにも様々なアイディアを膨らませながら形にしていくものの、リリースまでに至らない「未完成作」がまだあるらしい。
今作もまた、そんな中から選りすぐられた10曲が並んでいる。サウンド的には皆オーソドックスなプリファブ・サウンドだ。ただ、前作にも増してシンセや打ち込みが多用されているように感じる。これはパディの聴覚障害の影響があるようだ。生のベースやドラムに耳が耐えられないようで、どうしてもコンピュータで作り上げなければいけない事情が反映されている。
オープニングのThe Best Jewel Thief In The Worldはタイトルのごとく、世界一の宝石泥棒の鮮やかな様を描いた曲である。これが流麗ながら勢いのある曲で、プリファブ・ワールドに引き込むにはもってこいだ。続くList of Impossible Thingsは「アンドロメダ・ハイツ」あたりに入っていそうな、ロマンチックど真ん中の曲。パディのため息の出そうなヴォーカルと、適度に隙間のある演奏。僕の好きなプリファブである。3曲目のAdolescenceはシンセのウォール・オブ・サウンドでメロディーは良いのだが、ややトゥー・マッチな印象。
面白いのはDevil Came a Callingという曲。ややエキゾチックなサウンドで、冷ややかさと内側にある情念のコントラストが見事に表現されている。前述の通り、コンピュータの色合いがやや強く、だからといってプリファブの世界観が損なわれるといったことはないのだが、「ガラスの箱庭」のような刹那性がやや薄まってしまうように僕は感じた。
それでも、各楽曲のクオリティーには本当に舌を巻くし、もう絶対にパディにしか書けないメロディーを堪能できる。そして、その「原石」は、きっとまだまだパディの傍らにごろごろと転がっているのだ。それらが形となって、僕らの心をとろけさせてくれることを願ってやまない。