- Invisible Way/Low
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Low、通算10作目のアルバム。
前作C'monは凛とした大傑作アルバムとして、2011のベストアルバムにも選んだ。それから2年のスパンでのリリースとなる。ウィルコのジェフ・トゥイーディがプロデュースしているが、まさに彼でなければならなかったというのが、はっきりとわかる作品になっている。
アコギのカッティングと、ピアノ、そしてアランとミミの歌だけで構成されるオープニング、Plastic Cup。心に安らかさを与えてくれる穏やかなナンバーであるが、これだけフォーキーであっても、親しみやすさはなく、むしろより静謐さを増した印象だ。続くAmethystで、その静謐さがさらに深くなっていく。真っ暗なのに、その漆黒さがさらに増していく。しかしながら、そこにネガティヴな要素はない。むしろ、シンプルなものへの固定観念を揺り動かすように、その世界はとても豊穣なのだ。
3曲目So Blueでは一転して、ミミのヴォーカルとピアノがエモーショナルに絡み合う。4曲目Holy Ghostもミミがヴォーカルを取っているが、彼女単独だと普遍的な質感が出てくる。Lowの中でも、比較的柔らかさを感じるのはこういうナンバーだ。
今作は、前作と比べるとピアノやアコギなど生音中心のサウンドになっており、より削ぎ落とされた印象がある。しかし、音の一つ一つが非常にクリアで、生々しい響きを持っている。鍵盤や弦を弾く時に生まれるヴァイヴレーションまで伝えようとしているような、そんな意志を感じる。そして、あくまで個人的感想であるが、スタジオでアコースティック・ライブを観ているような、そんな臨場感もある。
実際、サウンド面での知識が豊富なジェフのおかげで、サウンド面での負担はかなり軽減されたらしい。ウィルコで見せる音の美しさと見事なマッチング、その才をここでも遺憾なく発揮している。
このアルバムのハイライトは、10曲目On My Own。穏やかなメロディーと流麗なアコギ、ピアノが続くが、中盤になり突如エレクトリックギターが咆吼し、重厚なサウンドへと転じる。そして、最後はhappy birthday,と連呼される。ひとりぽっちの自分自身に向けた、祈りのような「おめでとう」。日常がスイッチ一つで、孤独で絶望的なものに変わってしまうような、不条理さがこのナンバーには宿っている。
彼らの十八番であるスローでリフレインを多用したメロディーはもちろん健在。シンプルなリフレインが、なぜこんなに心を揺さぶるのか?それは「単調」からではなく、「ストイック」さから生まれてくるものだからだ。ゆえにどんなスタイルになろうとも、本質的なものは変わらない。
相変わらず救われるのかどうなのかわからない、日々繰り返されるような悲しみや痛みが、そこにはある。背けたくなるようなものを、彼らは受け止めた上で、「美」へと昇華させることが出来る。とても高次的な表現の出来る、僕にとって本当に大切なバンドだ。