The Next Day/David Bowie | Surf’s-Up

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ザ・ネクスト・デイ デラックス・エディション(完全生産限定盤)/デヴィッド・ボウイ



¥2,800

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デヴィット・ボウイ、10年ぶりのニューアルバム。すっかり隠居したと思われていた彼であるが、プロデューサーに、盟友トニー・ヴィスコンティを迎えて極秘裏にレコーディングをしてきたのが今作。


名作「Heroes」を塗りつぶしたジャケットもなかなか衝撃的だ。過去を更新して、前へ進むという意味があるらしいが、なぜに「Heroes」なのか。その辺りは、自分にはわからない。


80年代の暗黒時代(昔からのファンにとっては)に、僕は彼の音楽に出会った。Let's Danceのちょい後で、映画によく出ていた頃。当時は小学生で、単純にヒットチャート中心に洋楽を聴いていた自分にとっては「なかなかかっこいい」という印象だけだった。率直に言うと、さほどのめりこまなかったアーティストであった。


それから、徐々にブリティッシュ・ロックよりに志向が変わっていく頃には、ティン・マシーンというバンドを組むようになっていた。日本のお笑い番組にバンドで出演したことを今でも覚えている。すっかり気のいいおじさんみたいな。


そんなネガティブなイメージがガラッと変わったのは、アコギでSpace Oddityをプレイしているのを聴いたとき。曲の構成、悲痛なようで達観した世界。それは今まで体験したことの無いようなものだった。


そこから、過去のアルバムを一通り聴くようになった。今は輸入盤が1000円で買える時代。好きなアルバムは?と聞かれたら、ジギー、ハンキー・ドリー辺りを答えます。


でも、前作、前々作あたりは聴いていない。それはもう、過去の作品がとんでもなく素晴らしいから聞かないでおこうという、勝手な自分内ネガティブ・キャンペーンのせい。


そんな僕の視点でこのアルバムについてちょこっと語ります。


まず、驚いたのがオープニング、The Next Dayのギラギラぶり。フランツ・フェルディナンドの新作?!って感じのダンディズムとグラマラスが同居したようなチューン。情報として「かなりロックしている」というのがあったけど、こういうパーティーライクな方は想像していなかった。


Dirty Boysではえげつないギターと退廃的なサキソフォン。でも、サビのメロディーの拡がり方は実にボウイっぽい。


2ndシングルとなったThe Starsではエッジの効いたギターとダークなエモーションをプンプンにまき散らす。


Love Is Lostを挟んでのWhere Are We Now?この曲は掛け値無しに素晴らしい。ボウイの濡れたヴォーカルが堪能できる。ただ予告通りこの曲はアルバムの中では、かなり異質な存在。


その後Valentine's Day,I'd Rather Be Highのような柔らかなロックチューン、Dancing Out In Spaceのようなダンサブルチューンとわかりやすいメロディーを持った曲が続く。


キャッチー度でいけば、キャリアの中でもかなり高い方だと思う。サウンド的にはシンプルなフォーマットにバリトンサックスやキーボードという、ごく当たり前な感じだし、先鋭的な側面は皆無。イノベイターとしてのボウイはここにはいない。


しかし、個人的には、ここであえて大衆を意識した音を作り上げたことが「すごい」と思っている。結果的には誰も想像し得なかったボウイがやっぱりそこにある。時代の中の音楽であることから逃げない、ロックの「愉快犯」としてのボウイはまだ健在と言うことなのかもしれない。


(19/06/13)