Mature Themes/Ariel Pink's Haunted Graffiti | Surf’s-Up

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Mature Themes/Ariel Pink’s Haunted Grafitti



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アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ,2012年リリースの最新作。


USインディーの申し子、のように呼ばれるアリエル・ピンクだが、前作、Before Todayで僕は初めて彼らのサウンドに触れた。メロディーは実にわかりやすいのに、サウンドのフィルターが独特で、見事に「捩れた」ポップソングに昇華(と言っていいだろう)させているところが、見事だと思った。と同時に、どこかすっきりしないというか、表現者としての彼らの立ち位置が見えにくいのが気になった。


強烈なエネルギーや怒りをぶつけてきているようにも見えるが、明確ではなく、意図しないところで抽象的になっているような、そんな印象が強かった。それゆえに好きなサウンドなんだけど、あまり深く聞き込むまでは至らなかった。


今作で、その印象ががらりと変わった、ということはない。それでも個人的には前作よりもずっとよく聴いている。


相変わらずの蜷局を巻いたカオティックな世界観。60,70年代のロックをベースにしながら、きらっと光るポップネスを所々にちりばめている。そこが前作よりも少しわかりやすくなったような気がする。バーズのようなOnly In My Dreams、「いい感じになりたいっ(I Want It To Be Good)」と切なげにリフレインするMature Themes、甘いアーバンソウル風のBabyのようなナンバーには、ちょっとした「風格」が感じられる。


それは作ろうと思えば、こういう真っ当なポップソングを作れるんだという素直な主張のようにも見えるし、アルバムの中で自分の表現をエクスペリメンタル(彼は自分の音楽性を表現するのによくこの言葉を使う)たらしめるためにこしらえた「武器」のようにも見える。


もしくは普遍性の中にある「快楽性」の追求みたいなものをアリエルは命題としているのかもしれない。個人的にはこれが一番しっくりくるのだけど、小難しい思想だとか先鋭的なサウンドだとか、そういうものに執心するのではなく、ポップの中にあるドラッギーな要素をいかに聴き手に作用させるか。その点のぶれなさが、このアルバムには感じられる。


★★★★(14/02/13)