Dirty Projecters通算6作目の新作。前作「Bitte Orca」が絶賛の嵐だったことはまだ記憶に新しいところだと思うが、僕が聴いたのはだいぶ後のことだった。しかも正直このアルバムのすごさがわからなかった。よくよく考えてみると、簡単にそのすごさがわからないところがストロングポイントだったんだと後々思うのだが、カテゴライズ、紋切りを許さない強固な音世界を理解するには、僕はまだまだお呼びでなかったのかもしれない。
その衝撃から3年を経ての新作。こちらは前作に比べるとずいぶんと敷居を下げたような親しみやすさを感じる。幾分メロディーがわかりやすくなり、歌にフォーカスを合わせたからだと思う。しかし、冗長さ、リラックスしたムードとかそんなものは全くなく、ピンと張りつめた緊張感がアルバムを包んでいる。
ハンドクラップと力強いコーラスから始まるOffspring Are Blank。ゴスペルか賛美歌かと思うようなデイヴの歌に突き刺さってくる荒々しいディストーションギター。それでいて、ロックの「臭み」は感じられない。2曲目About To DieはこれぞDirty Projectersって感じのポリフォニックな構造でありながら、サビのメロディーのポップさが何とも不思議なバランスを保っている。3曲目、リード曲であるGun Has No Triggerは割と素直な歌もの。デイヴの歌い回しはロックというよりはソウルやR&Bに近いものを感じる。そして4曲目Swing Lo Magellanは彼ら流のポール・マッカートニー風アコースティック・ポップ。
総じて言うとしなやかで力強い歌が並んでいる。多用されているハーモニーも心地よさを演出すると言うよりは、人間の生命感を楽曲に吹き込む作用をもたらしている。また、サンプリングや打ち込みも結構見られるが、それらも彼らの描く濃い世界観の中ではなんだか呼吸や心臓音のように、人間・生命が発する音のように感じられる。そして、聴き手の経験則を実に巧妙に交わしていくような曲展開は、このアルバムでも聞き所の一つ。その辺は「さすが」としか言いようがないんだけど、前作よりも抑えめになっていることをどうとらえるか。個人的にはメロディーの力がより解放されたのではないかと思っている。
何度聞いても新たな発見がある。何度聴いても感動がある。音楽ってまだまだクリエイティブで強いじゃんって、信じることのできる、そんなアルバムだと思うのです。僕の中では彼らの最高傑作。
★★★★★(29/10/12)