Electric Cables/Lightships | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

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 TFCのジェラルド・ラヴ、Lightship名義の初ソロアルバム。ご存じの通り、TFCでもノーマン、レイモンドに負けず劣らず名曲を数多く生み出したソングライターである。で、明らかにいくらでもソロ作を作る力は持っているのに、今まで目立ったソロ活動はしてこなかった。


 しかし今回、満を持して初めてのソロ作品が完成した。レコーディングはTFCの最新作「Shadows」のセッションが終わった後から開始された。そこではプロトゥールを使い、デモを作ったのこと。しかし、そこからバンドでバックトラックを作りたいという気持ちが沸き上がり、ブレンダン・オヘアやボブ・キルデアなどグラスゴー人脈で編成していった。


 そういう自分の思ったことが理想的な形になっていったことで、余裕も生まれたのだろう。このアルバムは良い意味で肩の力が抜けた、そしてジェラルドの音楽に対する誠実さが伝わってくる作品になっている。


 オープニングトラック、Two Linesはメロトロンと思われる幻想的なイントロから、儚げなジェラルドのヴォーカルが淡く溶けていく。TFCでの彼と変わらないと言えば変わらないが、若干サイケデリアへの接近を試みているようにも感じる。2曲目Muddy Riversも完全にTFCにありそうな感じであるが、どことなく非現実的な空気を醸し出している。そういう意味ではこれもまた、ソフト・サイケなテイストのある曲だ。


 Sweetness In Her Spark、Stretching Outといった「TFCのジェラルド」的な曲もしっかりあるのだけど、どこか慎ましげで、やはり儚い。こぼれ落ちそうな音の滴を、こぼさぬように丁寧にすくい取っているようなサウンド・プロダクション。そんな表現をしたくなるような、きらめく美しさがこのアルバムにはある。TFCと比べるとギターサウンドはやや後退し、代わりに管楽器(特にフルート)やシンセがキーサウンドとなっている。ジェラルドの紡ぐ職人的メロディーとは非常に相性が良く、極上のメロウへと昇華させている。


 最初に聴いたときから「素晴らしい」と確信を持ったけど、聴けば聴くほど味わいの広がるアルバムである。同時に時と場所を選ぶことのないアルバムだとも思う。ジャケット緑ですから。エヴァーグリーンとはこのことでしょう。


 ★★★★☆(28/05/12)