米シアトル出身のマイク・ハッドレアスのソロ・ユニットであるPerfume Genius。今作はセカンドにあたる。劣悪で孤独な家庭環境の中で育ったという彼。表現そのものが確かに痛々しさと叫びにも近い祈りに満ちあふれている。
サウンド的にはピアノを中心としたシンプルなバックトラックで、その中心に儚げなヴォーカルを聞かせるというスタイルである。所々荘厳な音作りもしているが、必要最小限に抑えられている。曲調は緩いテンポのものが多いが、尺がコンパクトで冗長感は全くない。むしろどの曲も、表現者としての凄みがビンビンと伝わってくる。
そして、必要最小限の音でありながら、その一音一音のテンションがすさまじい。練り上げた結果そうなったのではなく、もともと自分の中に余分なものが全くなかったのだろう。今あるだけのものを全て出し切ってしまったような、熱量のあるアルバムでもある。
リードトラックであるHoodは、自分の真の姿を知ってしまった人が、自分の元を離れていく歌である。残酷な現実と、それを知るゆえに「愛の行く末」が恐ろしくてたまらない不安が、儚くも力強さを秘めたメロディーとともに見事に鳴り響いている。そのほかにもアルバム中一番重厚なトラックに、浮遊感のあるメロディーが絡んでいく姿が美しいTake Me Home、チルウェイブっぽいFroating Spitなど、かつてのDIYマインドを感じさせる曲も含んでいるが、一番惹かれるのは彼の書くメロディーだ。とにかく素晴らしい。一瞬のして心を鷲掴みにしてしまうような中毒性を持っている。
ゲイであることを公言しているマイクであるが、アルバムにある曲はほぼ全編その視点から書かれている。歌詞カードを見ると、強く思わせる描写も多い。でも感じたのは、ゲイであることにどれだけポジティブであっても、埋めようのない孤独と寂しさがあるんだと言うことだ。それはもちろんゲイである人に限ったことではないだろう。しかし、一種のマイノリティーであることの生きづらさ、困難さがリアルに伝わってくる。
サウンドスタイルも含めて、Anthony&The Johnsonsの名が浮かんでくるが、アントニーが性を超えたところで生きる表現者であり続けようとしているのに対し、マイクはあくまで「男性」であって、ゲイとしてどれだけ世の中を渡り合っていけるかを表現の命題にしているように見える。だから表現の核の部分では非なるものだろう。
HoodのPVを見たとき、正直感動はなかった。率直に言って一番強く感じたのは「嫌悪」に近いものだったと思う。この感情は非常に根深く、しぶといものだ。そしておそらく劇的にその視点が自分からなくなることもないだろう。そういった中で彼は自分らしさを全うしようと生きていく。それは恐ろしくタフなことだろうし、このアルバムはまだその一歩に過ぎないのだろう。しかし、その一歩がどれだけ大きいことか、このアルバムを聴けばはっきりとわかる。
★★★★☆(23/04/12)