The King Of Limbs/Radiohead | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

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 リリースからすっかり時間が経ってしまった、Radioheadの新作。今更このレビューを読んで聴いてみたいという人もいない(もうとっくに聴いているだろう、という意味です)と思うが、自分の備忘録的な意味合いで書いてみたいと思う。


 突然のアナウンスによってリリースされた今作であるが、このアルバムを聴いて、思い出さずにいられなかったのは、昨年のフジ。Atoms For Peaceのパフォーマンスである。あの場で鳴らされた、まるで生き物のような肉体性を持った音。あるいはこの世で鳴ることに圧倒的な必然性を持った音。


 あの場にいた人たちは「すごいものが見れた」という感覚はなかったんじゃないかと思う。それは、もう当たり前のようにそこで鳴っていて、僕らも当たり前のようにそこにいるというとてつもない求心力に満ちたステージだった。


 で、この新作でもそのテイストは変わっていない。アンビエント、ダブ・ステップ的なアプローチは、今やロックの世界でも主流となりつつあるが、トムのソロ、そして前作「In Rainbows」で培った「フリーキーな音楽性」を絶妙なさじ加減で消化させているのはさすが。結局唯一無二の音の磁場を生み出している。

 オープニングのイントロがとにかく強烈、という印象がある彼らのアルバム。Bloomもやはりそう。このため息が出そうな美しさはいったい何なんだろう。例えばKID AのEverything In Its Right Placeのイントロは、その瞬間に周りの世界のスイッチが一気にオフになるような場面転換力のあるものだったが、Bloomはもっと柔らかに、気がつけばあたりが夕闇に包まれているといった「自然さ」を感じさせるものだ。


 全体的にはミニマル・ミュージックの雰囲気が強いが、その中でもエキゾチックなサウンドが魅力的なLittle By Littleやレディヘ版Across The UniverseのようなGive Up The Ghostのような曲もあり、全8曲というコンパクトな作りであっても物足りなさを感じさせない。1曲1曲の濃密な情報量が、聞き手の欲を見事に満たしていると思う。彼らの場合、どんなにすごいことをやっても、結局そこはかとないポピュラリティが必ず存在する。全くケチの付けようがない。


 KID Aで初めて鳴らすことのできた「頭の中」の音楽。さらに10年ほどかけて熟成させたものは、素晴らしくないわけがない。ただ、このあまりにも完成された作品に対して、特に思い入れのある人には様々な感情が去来してるんじゃないだろうかと思う。自分自身もそうなんだけど、もはやこれは「ロック」なのか?という自問自答はやはりある。それもまた、正しいロックバンドのあり方か。


 ★★★★★(10/09/11)