英デヴォン出身の4人組、Metronomyの新作。前作「Nights Out」は音楽雑誌の2009年度ベストアルバムの一つに数えられるなど、インパクトの強いアルバムだった。
その要因は、テクノ/エレクトロの新たな可能性を感じさせるものだったということが大きいだろう。シンセのアナログ感の強いトラックとポップなメロディーのマッチングは、ギリギリのところでバランスを保っており、聞き手にとってはすごく新鮮だったように思う。当時ニューレイヴ全盛だったということもあって、彼らの存在は際だって見えた。
当時3人組だったが、現在は4人組。しかもギターにキーボード、ベース、ドラムというロックバンド的な構成になっている。その構成の変化が影響しているのかどうかはわからないが、音は劇的な変化を見せている。
波の音とカモメの鳴き声、そこに何とも言えなくノスタルジックなストリングスが入るThe English Riviera。そこから流れるように、ムーディーなベースとシンセで始まるWe Broke Freeにつながっていく。前作が動的なアルバムだととらえるならば、まさにこのアルバムは「静的」なものだと思う。または内省的か。
続くEverything Goes My WayやThe Lookは若干前作の名残を感じさせるが、それでもトーンは抑えめ。70年代のウェストコースト・サウンドやスティーリー・ダン、はたまたAOR級の甘さを含んだような、心地よいナンバーが並んでいる。そして当時のそれらのサウンドが、光の裏側にある社会やカルチャーの没落や、若者の焦燥感を表現していたように、彼らの音も同質的に鳴っている。
全体的にはより歌ものに近づいた気がするが、どちらか言うと歌よりもバックトラックの一音一音に耳が行ってしまう。どんなにメロウに仕上がっていても、バックトラックに耳を傾けて欲しい。そこにこそ彼らの神髄的な魅力が詰まっている。シンセのみならず、全ての音に達観的なものを感じるというか、何かの「終焉」を受け入れたような潔さの元になっているような気がするのだ。そしてそれが、このアルバムを包む郷愁感につながっているように思う。
このアルバムは春にリリースされたが、個人的には夏によく聴いた。一人で海に行ったときに、これを聴いていたら何時間でもそこに居られるような気がした。これを聴いていると思考が止まってしまう。はたまた先に進む気がなくなってしまうんだけど、皆さんはどうでしょうか?
★★★★(03/09/11)