Different Gear,Still Speeding/Beady Eye | Surf’s-Up

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 期待よりは不安の方が大きかったBeady Eye。いい作品を作り出してはいたものの、かつて「B面にも名曲揃い」であった神がかったソングライティングはやや翳りが見られていた後期オアシス。それでも、ノエル・ギャラガーという巨大な才能があったおかげで、モダン・ロックンロールのど真ん中を走り続けることができた。


 そのノエルが脱退した状況を肯定的に見た人は、当時どれくらいいたのだろう?僕は少しも肯定的な見方をすることができなかった。残りの4人でバンドを続けると聞いたときも「あぁ、よかった」とは思えなかった。「懐メロバンドだけにはならないでほしい」と思うだけだった。


 バンドメンバーの一人、アンディ・ベルはかつてライドとハリケーン#1というバンドでギター兼ソングライターを務めていた。ライドの初期シングルや1stアルバムはシューゲイザーの歴史に残る傑作だと思っているが、アンディはどちらか言うと後期ライドの音作りのキーパーソンで、ラストアルバム「タランチュラ」ではほとんどの曲を書いている。しかし、轟音と甘美なメロディーの融合が特徴だった初期とはあまりに違うアーシーでダイナミックなロックへの転向をはかったことが原因なのか、ライドは解散してしまう。次にアンディが結成したハリケーン#1はまさに「タランチュラ」のサウンドを引き継ぎ、ヴォーカルのアレックス・ロウのこぶしの効き具合もあって、男臭いロックを奏でるバンドであった。しかし、ハリケーン#1も短い期間で活動を終え、アンディはUKのモッドを代表するロックバンドの、一べーシストとなった。


 僕はファンの中で評判の悪い後期ライドサウンドが結構好きである(初期にはかないませんが)。ハリケーン#1も。ここでのアンディーは本当にいい曲を書いていた。オアシスに加入したときに、またいい曲を書くんじゃないかと密かに期待をしていた。しかし、オアシス在籍時のアンディの曲は正直どれもパッとしなかった。


 少々前置きが長くなったが、Beady Eyeにはソングライターが3人いる。アンディ、そして元ヘヴィー・ステレオのゲム、そしてリアム。Beady Eyeの生命線はずばり「ソングライティング」。今更リアムのヴォーカルやサウンド面での進化は求めていない。曲の質の善し悪しのみがポイント。3人がノエルに比肩するくらいの力を発揮できるかどうか。


 アンディはオープニングのガレージサイケなイントロかかっこいいFour Letter Word、泣きのノスタルジアKill For A Dream、ブルースバンドでジョン・レノンが歌っているようなThree Ring Circus、そして今後ライブのハイライトになるであろうロックンロールへの決意表明、The Beat Goes Onの4曲を書いている。久しぶりにかつてのアンディを思わせるような、フックを持ったメロディーを書いている。特にThe beat Goes Onはアルバム中で1,2を争うほどの王道的なメロディーである。


 で、よく考えると、実は後期オアシスは避けてきたのかできなかったのか、こういう曲が欠けていた。1度聴いただけで耳に残るメロディー、誰もが口ずさめる「Don't Look Back In Anger」のような曲。


 ソングライターの一人、ゲムはアルバム最多の6曲を書いている。Millionaireはドライブ感のあるラーガ・ロック。親しみやすいメロディーと、後期オアシスにはなかった軽快なグルーヴがここにはある。これまた代表曲になるだろうThe Rollerはいかにもジョン・レノンだが、リアムだからこそこういうポップなメロディーがかっこいいロックに聞こえる。For Anyoneはリアムの曲だと思っていたが、これもゲムの手によるもの。アコギを軽やかにならしながら優しげに歌う、美しいナンバーだ。Standing On The Edge Of The Noiseは問答無用のロックンロール・ナンバー。あまりのストレートさに逆にバットが出ないような感じ。アルバムラストのシンプルなスローナンバーThe Morning Sonは、どうにもThe La'sのLooking Glassを想起させる(プロデューサーも同じだし)。


 というわけで、ゲムのソングライティングもオアシス時とは比べものにならないくらい冴えを見せている。リアムの曲はここでは正直影が薄いが、その分ヴォーカリストとしては十分に力を発揮している。後期オアシスよりも朗々としているというか、非常にポジティヴな響きを持っている。


 「ノエル抜きのオアシス」かどうか?という議論はかなりし尽くされているが、僕としてはある意味正論だと思う。オアシスと比べて、大きくモデルチェンジをしたわけではない。当然ファンもそれを望んではいないが、正直驚くほど変わっていない。しかし、バンドとしての一体感、風通しの良さ、勢い、迷いのなさなどといったポジティブな要素が格段い増えたように思う。ノエルが、新たなオアシスサウンドを構築しようと躍起になっていた分、従来のオアシス・クラシックなサウンドはどんどん追いやられていったわけだが、今回4人でそれを引っ張り出し、再び鳴らすことに成功している。


 ファーストということも手伝って、久しぶりにきらめき感のあるロックンロール・アルバムを聴かせてくれたことは素直にうれしい。今後は今の「いい線行ってる」というラインをどうブレイクスルーするかというところにかかっているだろう。The Roller,Millionaire,The beat Goes Onレベルの曲がポンポン出てくるようになれば、それはもう勝利宣言だ!


 最後に。東北関東を襲った大震災に対し、いち早くコメントを出し、英国でベネフィット・コンサートを開くなど、支援へ熱心に動いてくれたリアム始めバンドのメンバーに感謝します。あなたのような人が心を動かしてくれたという事実が、今とても響きます。


 ★★★★☆(06/04/11)