It's What I'm Thinking Pt.1 - Photographing Snow | Surf’s-Up

Surf’s-Up

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 Badly Drawn Boy、通算7枚目に当たる新作アルバム。デビュー当時は宅録的な万華鏡サウンドと直球に近い歌メロの絶妙なバランスが大絶賛されていたが、作品を重ねるごとに、そのサウンドスタイルは段々とシンプルなものになっていった。


 それ故に近年の彼の作品は「普通になった」とも言われる。しかしながら、作品の根幹にあるメロディーの美しさは健在で、個人的には今でもUK屈指のソングライターであると思っている。もっと注目されても良いような気がするけど、デーモン・ゴフはあえてそういうものを嫌って活動しているようにも見える。


 私見であるけれど、美しい曲を書くためには自分の感性を錆び付かせてはいけないわけで、シーンの流れにとらわれるあまり・・・というアーティストも残念ながら居る。デーモンの今の立ち位置というのは、自分の音楽を追究するのにはいいのかもしれない。未だ日本盤リリースの情報はないが、充実した作品作りに取り組めていることは喜ばしいことだ。


 で、肝心の新作であるが、全体的にアコースティックな響きを主体としたサウンドプロダクションである。デーモンの歌は、UK独特のウェットなテイストであるが、自然体のサウンドがともすれば数多の「叙情系」が陥りがちな、過剰な叙情性を抑える効果をもたらしている。


 

 アコギをつま弾きながら歌われる、リヴァーヴのかかったメロディーがじんわりと広がっていくIn Safe Handsでアルバムはスタートする。前作が自分のポップネスをわかりやすい形で表現していたのと比べると、確実に地味な印象を受けるだろう。


 しかしながら、ソングライティングの方は今作でも冴えまくっている。壮大なストリングスをバックに流れるように美しいメロディーが展開するToo Many Miracles、雨のイングランドの風景が想起されるメランコリックなナンバー、I Saw You Walk Awayあたりは新たなファンを獲得できそうなほどキャッチーな響きを持っている。


 ただ個人的には、Automatic~期のR.E.M.のようなIt's What I'm Thinking、ほぼストリングスだけの中でやるせない思いをぶつけるWhat Tomorrow Bringsのように、ギリギリに削ぎ落とされた楽曲群に、より魅力を覚えた。時々彼はこういう剥き出しに近い曲を作るが、そこには確実に表現の生々しい感触があって、聴いているとドキドキしてくるのだ。


 ★★★★☆(22/01/11)