とげまる/スピッツ | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Upスピッツ約3年ぶり、通算13作目のアルバム。デビューしてからかれこれ20年。変わらずに第一線を走り続けているが、アルバムのインターバルが3年も開いたのは初めてのこと。これについてはインタビューで「今はツアーとレコーディングを一緒にやることが出来ないので」と語っていた。


 つまり、今のスピッツは余裕を持ってじっくりと曲の完成度を高めるようにしているのだろう。今作は前作同様亀田誠治との共同プロデュース。そして収録曲の約半分がシングル・タイアップ。これは事前情報としては不安要素だった。つまりは既聴感覚によって「ワクワク感」がスポイルされないだろうかと思ったのだ。シングルは持っていなくても、確かに「聴いたことあるなぁ」という曲が多い。


 しかしながら、それは全くの杞憂であった。次から次へと繰り出される「スピッツ節」は、そんなものを凌駕するほど魅力に溢れている。ダイナミックなギターイントロから始まる「ビギナー」から、甘酸っぱいギタポ「君は太陽」まで、勢いは全く衰えることなく、だれることなく突っ走っている。


 スピッツらしさ全開、心の琴線ふるわせまくりの14曲。新機軸といえるようなサウンドは特にない。強いて言えば「新月」か。ピアノのループと重厚なギター、伸びやかなメロディーが響き渡る雄大さを感じさせる曲だ。カントリーチックな「花の写真」も良い味を出している。もちろん従来の直球ギターロックも冴えまくっている。「幻のドラゴン」「えにし」のドライブ感、歌謡曲テイストを漂わせる「恋する凡人」「TRABANT」など、期待を裏切らないクオリティーの曲が並ぶ。


 全体的な印象としては、オーバープロデュースされることなく、楽曲のシンプルな良さを感じさせようとしている感がある。草野正宗の作る楽曲は、言葉とメロディーが奇跡的なバランスを保っている。言葉がどこかへんてこなのに、そこにあのメロディーがつくだけで、言葉が必然性を持ち、キラキラし出すのだ。その輝き出す瞬間は未だもって、たまらなく気持ちいい。


 しかし、過去の作品の中にはサウンドの変化を求める余り、そのケミストリーが不十分に感じられるものもあった。当然、どのロックバンドも自分たちの「イメージ」なるものと戦う。長くやればやるほど、その戦いは困難を極めるだろう。スピッツの作品にもそういう飛躍や変化を狙ったものがあった。ただそれは全てが成功したとは言い難い。


 今の彼らは、そういう季節を越えて、「スピッツらしさ」に対して達観した境地にいるのだと思う。前作もそういうところはあったが、今作のシンプルさ・素直さはそれを遙かに超えている。これはすごいと思う。スピッツでいることを彼らは全く恐れていない。自信ではなくて、100%の自分たちを受け入れる覚悟ができている。でも、よくよく考えてみると実は彼ら自身、「スピッツらしさ」って何なのか分かっていないんじゃないかとも思う。


 何だか分からないから、何だか分からないままに作品を作る。抽象化されたままの自分たちに素直に向かっていける、音楽を始めたバンドマンたちと同じような立ち位置で音楽と向き合っているんじゃないだろうか。


 ★★★★☆(9/11/10)



地平線を知りたくて ゴミ山登る 答え見つけよう
なんとなくでは終われない
星になる少し前に


海原を渡っていく 鳥のような心がここに在る


あふれだしそうな よくわかんない気持ち
背中をぐっと押す手のひら
斜めった芝生を転がっていくのだ
止めたくない今の速度 ごめんなさい