言葉にならない、笑顔を見せてくれよ/くるり | Surf’s-Up

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Surf’s-Up くるり通算9枚目のアルバム、「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」。


オープニングは「ろくでなしアメリカの」という強烈な歌い出しで始まる「さよならアメリカ」。アンチアメリカというよりは、日本そのものの行く末を、王道のアメリカン・サウンドで歌っている。この歌詞が実に素晴らしい。言葉は少ないけど、韻や響きに全く違和感なく、言いたいことだけを的確に伝えてくる。


 リリースするごとに変化や新境地を見せるバンドであるが、今作はレコーディングは全て国内で行われた。これまで、ウィーンやNYといったところで、その土地のヴァイヴを感じながら作られてきたことを考えると、今作のキーワードは「和」ということになるかもしれない。「東京レレレのレ」はくるり版阿波踊りとでも言おうか。日本の土着的なグルーヴを取り上げた曲だ。また、のほほんとしたテイスト「温泉」という曲もある。


 でも、むしろそういった事前情報を全く考えないで聴くことが、このアルバムの正しい楽しみ方かもしれない。というのはこのアルバムにあるのは、理想の「自然体」サウンドだと思うからだ。全編に渡って、肩肘張らずに自然に作られている感じがある。「ギターを鳴らしたらこんなメロディーが浮かんだ」「コーヒーを飲んでいたらこんな言葉が湧いてきた」生活の所作の中にあるような普遍的なメロディーと言葉。派手なプロダクションも、アイディアもここにはない。あるのは普通に良い歌だけ。この「自然体」なグルーヴを出せるようになったということは、バンドにとってすごく大きいんじゃないだろうか。


 「魔法のじゅうたん」はシングルの時は、なかなか良い曲だなぁという印象しかなかったけど、このアルバムの中では一段と光を放っている。「魔法のじゅうたん」に乗っていけるならば、僕らはどこにいたって一つになれるという、ごくありふれたメッセージだけど、くるりがやると何ともさりげなくて切ないものへと昇華される。


 「シャツを洗えば」は、ユーミンとのコラボ作品。アルバム制作当初はユーミンをプロデューサーに迎え、きらびやかなポップアルバムを作ろうとしていたらしい。その頃の名残を感じさせるナンバーで、良い曲ながらややアルバムの中では浮いているようにも見える。


 しかし、もう一つのコラボ作品(作詞でユーミン参加)である、ややアーバンテイストなサウンドに、フォーキーで叙情感を湛えた歌を乗せた「Fire」は実に素晴らしい。声を枯らしながらシャウトする「犬とベイビー」、ハイテンポなシャッフルナンバー「石、転がっといたらええやん」。この2曲のあまりにも直球勝負な感じも、このアルバムの中では生き生きと跳ね出す。


 改めて言うが、どシンプルなサウンドながら歌詞、サウンド共にどこまでも研ぎ澄まされている。心に染みいってどうしようもない。賛否両論あるだろうが、イノベーターとしての地位を捨てたくるりが僕は大好きである。


★★★★★(02/10/10)