曽我部恵一のソロアルバム。今年はサニーデイ・サービスとしてもフルアルバムをリリースしている。相変わらずのハイペース。プロデュース作品も含めると、毎日が音楽漬けっていう感じで、全く持ってうらやましい。音楽も好きだけど、生き方そのものが好きな人である。
今作は、全編ギター弾き語りの12曲。今年、マイクなし、アコギ一本でのライブを収録した「LIVE LOVE」というアルバムをリリースしているが、ソロで活動するスタイルとしては今これが一番しっくり来るのだろう。実際これだけ多作で、幅広い活動をしている中で、この「ギター一本で弾き語り」というスタイルは非常に際だったものを感じさせる。
それは簡単に言えば、「生身」の曽我部恵一そのものがそこにあるということ。「個」の集合体であるバンドで見せるマジックがない代わりに、隠しようがないくらいに曽我部恵一のソウルが剥き出しとなったアルバムとなっている。
音楽的には至ってシンプルな作品だ。個性的なナンバーといえば、ポエトリーリーディングする「サマー・シンフォニー」くらいだろうか。あとは本当に市井の人々のなんでもない、でもきらめきに溢れた風景を優しい言葉で紡いでいっただけの作品だ。それこそ70、80年代には日本でも優れたソロシンガーが弾き語りだけでいくつも素晴らしい作品を生み出していったと聞く。あまり詳しくはないのだが、そういった作品と比べても遜色ないんじゃないだろうか。
というのはこのアルバムが、シンプルなのに聴いていると強烈に引きつけられる不思議な力を持っているからだ。2年ほどかけられてレコーディングされたそうだが、決して丁寧に作られたという作品ではない。声がかすれ気味だったり、ひっくり返りそうになっているパートも見られる(ソロに限ってのことではないが)。しかし、そういう部分にこそ曽我部恵一の伝えたいリアルがあるのだと思う。だから録り直したりしない。形ではなくて、そこに自分の「全て」があればいいのだ。
もちろんこれは音楽に対する愛と抜群の嗅覚と、豊かな表現力があってこそ具現化できるわけであって、そういう意味では曽我部恵一の「音楽人」としての最たる場所に位置するアルバムだと思う。
おすすめ度★★★★(29/09/10)