「USインディ界最後の秘宝」ことアリエル・ピンク、名門4ADに移籍しての初アルバム。
といっても、自分もアリエル・ピンクのことについてほぼ無知だったのだが、調べてみるとこれまでは宅録によるローファイサウンドを中心とした作品をずっと作り続けてきたそう。で、アニマル・コレクティヴがアリエルを見出し、今作のリリースへとつながったそうである。で、そんなカルト・ヒーローが自身のバンドを従え、スタジオ録音で勝負した今作。非常にクセのある作品に仕上がっている。
1曲目が車のSEからチープなサックス、やがてヘナヘナとしたヴォーカルが乗っかっていくHot Body Rub。2曲目はレトロなギターサウンドによる、ちゃんとした歌ものBright Lit Blue Skies。そして3曲目は展開が目まぐるしく変わるL'estat (Acc. To The Widow's Maid)。キーボートを中心とし、どことなく陰りのあるテイストは共通しているものの、全く本流が読めないサウンドを展開している。
長年宅録をやってきた分、自分の中で作品作りに対する自由度が高いのだろう。奔放というか、自分のポップセンスを自在な形で表現している。そのためのバンド構成なのかもしれない。サウンドに少し厚みを持たせることで、アリエルの摩訶不思議なポップセンスがよりダイレクトに伝わってくるような印象を受ける。
他にも、80年代風のダークなエレポップFright Night (Nevermore)、ディスコティックなBeverly Kills、コード進行がNirvanaっぽいButt-House Blondies、これまた80'sっぽいシティ・ポップスCan't Hear My Eyesなど、一体この人はいくつの引き出しを持っているのだろう、と聞いてみたくなるほど。ポップな側面を持ちつつも、どの曲にもアバンギャルドな匂いを感じさせる。
サウンド的にはばらついている感はあるものの、この「ばらつきよう」がアリエルの真骨頂なのだろう。逆にトーンが近いような曲ばかりだとか、ストーリーが見えてしまうような作品ではつまらないだろうと思っているのかもしれない。そして、リスナーを試すような、アリエルの愉快犯的な姿勢もこの作品からは感じられる。受けの良いものを作るのではなく、最初は「何だ、これ?」でも最後には「いいわ、これ!」にしてしまうような、そんなアーティストとしての気概も現れているような気がする。
路地裏をモチーフにしたようなジャケット。裏通り各所の扉の奥でひっそり鳴っている音楽。アリエルはその扉の一つ一つを開け放ち、そこに確かに聴くべき音楽が存在することを教えているような、そんな風にも見えるがどうだろう。
おすすめ度★★★★(22/08/10)