仮に、自分が大人になるまでの過程を追ったポートレイトがあったとしよう。そこにきらびやかな世界はない。映画のようなドラマティックな恋愛もないし、ほしいだけのお金もない。切り取られた自分の人生の風景は、ただただありふれたもので、誇れるような美しさもない。本当はそこに存在していてほしいものが、ぽっかりと欠落した風景ばかり。
自分がドラムスを聴いて浮かんでくるのが、そういう人生の一風景。ドラムスの音楽ってどこか懐かしくて、でも途方もない切なさやあの頃の自分が抱えていた痛みみたいなものが存在している。ちっともかっこよくないし、スマートでもない。
でも、だからこそドラムスがぎこちなく鳴らすポップソングには絶対の信頼を置ける。嘘偽りのない、リアルな思いだけで紡がれているからだ。そこには、思春期をやるせない思いで過ごしてきた人、またはそのまっただ中にいる人の全てがあるからだ。
個人的には、メロディーのピュアさがどうにもガールズと近いように感じられる。完成されていないけど、一撃で聴き手を虜にしてしまうような甘さと、今にも欲望が暴走するんじゃないかというスレスレの性急さに満ちている。でも、ガールズの場合は、「普通の青春を送りたい」という満たされなかった欲求が元になっているような感があるけど、ドラムスの場合は「青春って、こんなものなの?」っていう、今手にしているものへの失望感や焦燥感みたいなものが根底になっているように見える。立ち位置が違うわけだけど、「音楽」に対する希求的な思いという点では一致しているだろう。
剥き出しのベースライン、脳天気な口笛。歌いたいことは「ママ、サーフィンに行きたいよー」という一点。そこに至るドラマは何もない。ただ、今、そう思ってるだけ。彼らの存在を一躍知らしめたLet's Go Surfin。ドラムスの歴史はここからスタートしたが、このアルバムにはそんな風にシンプルで、何かが欠落した感じのポップソングがぎっしり詰まっている。
必要最低限というか、もしかしたら必要なものが2,3個ないんじゃないかって言うくらいにスッカスカの音。思いつくのは70'後半~80'のニューウェーヴ。例えば、Me And The Moonのイントロのドラムを聴いてほしい。このスネア(たぶん)のつぶしのかかった音を聴いたときに、「いやー懐かしい」と思ってしまった
1曲1曲素晴らしいのだけど、できればトータルに楽しむべきアルバムだと思う。ニューウェーヴ系によくある、新鮮さが薄れていってアルバム後半からどん詰まりになっていく感じがこのアルバムにはない。次から次へと新鮮なメロディーが湧き上がってくる。その中でもちょっと異色なDown By The Waterに注目してほしい。
ゆったりとした中で、ジョナサンのR&B調の熱いヴォーカルがフィーチャーされた曲なのだが、「永遠の愛」を本気で伝えたいっていう、祈りにも似た気持ちが痛々しさを持って伝わってくる。ほかにも大人になる事への不安を高揚感のあるメロディーで歌い上げるWe Triedなど、語りたくなる曲がいっぱいあるのだが、実際に聴いて確かめてみてください。
おすすめ度★★★★★(26/06/10)