サニーデイ・サービス,10年ぶりのアルバム。再結成と聞いたときはすごく嬉しかったし、懐かしい気持ちにもなったが、率直に言うとその理由はよくわからなかった。曽我部恵一はソカバンやソロとして自分のペースで素晴らしい作品を生み出し続けていたわけだから。そこに無理や不満はあるとは思えなかった。
だが、どういうわけか彼らは戻ってきた。そこにはいろいろな思いやドラマがあったとは思う。しかし、できあがったものはそういうものを全く感じさせない、どこまでも「サニーデイ」な作品だった。「懐かしい」感じもしないし、10年経ったということも感じさせない。
独特のタイムラグ感があるサウンドは健在。上手い下手を超えたグルーヴ。そもそもこれがないとサニーデイではないのだ。前作となる「LOVE ALBUM」は若干ギリギリなところがあった。一部の曲ではそれが失われていたような感があった。しかし、今作では見事なまでに全曲、徹頭徹尾彼らのグルーヴが展開している.
カウントから始まるオープニング「恋人たち」、これがまず見事だ。オルガンとシンプルなメロディー、そしてささやくような曽我部のヴォーカルが、まるで旅へ向かう列車の中にいるような気持ちにさせてくれる。「Somewhere In My Heart」ではひんやりとしたギター、ベースラインで薄暗い都会へと誘う。そして、「ふたつのハート」では、センチメンタルが大爆発!二人のドラマをシンプルな言葉で描いた名曲だ。
他にも鈴木慶一がピアノで参加した、センチメンタルなポップス「南口の恋」、カッティングギターに乗せて、甘い歌が拡がっていく「まわる花」も軽快で心地よい。そして続く「水色の世界」「五月雨が通り過ぎて」ではまたフォーキーな方へとシフト。「東京」「愛と笑いの夜」あたりに通じるウェットな質感を持った曲だ。
「おっ」と思ったのは、世界観も含めてGalaxy500を思わせるような「Dead Flowers」。曽我部ソロでは彼らの曲をカバーしていたが、ふとしたもの悲しさをシンプルな対比やサウンドで鮮やかに描く様が共通しているような気がする。
アコースティックながらちょっとダークでサイケがかった「poetic lightまよなか」、そして儚げなピアノと歌がどこまでも美しい「だれも知らなかった朝に」でエンディングを迎える。
「若者たち」以来のシンプルさ。先鋭的なサウンドは一切ない。変化や蓄積も特にはない。じゃあ、このアルバムがどこにでもあるようなものなのかと言ったら、それは全く違う。むしろ「どこにもない」ような圧倒的な個性を放っているのだ。これが実に不思議である。「3人だけが生み出せるもの」と言うしかない。事実、彼らが再結成を決めたのもそこが大きいわけだから。そこに「自分」をリンクさせることで、その人だけの「うた」となる、いわゆる「抱きしめたくなるような」アルバムと言っていいだろう。
最後に、曽我部恵一の底なしのメロウネスには恐れ入る。何なんだこの人は!!
おすすめ度★★★★☆(08/05/10)