「UK版ベック」「一人アクモン」など実に気になる称号を数多く携えて現れた、SSWのJamie.T。彼のセカンドにして日本では初登場の「Kings&Queens」。
その音楽性は説明するのが難しいが、ポップなメロディーがヒップ・ホップ、フォーク、パンクなどの雑多なフォーマットの中で矢継ぎ早に繰り出される。トラック自体はガチガチに作られた感が無く、適度なざっくり感が残されている。ややローファイ気味なミクスチャーサウンドといった感じだ。
Castro Diesのように思いっきりヒップホップへと傾倒しているような曲もあれば、British Intelligenceではまさにアクモンばりのつんのめりそうなロックンロールを披露。Jilly Armeanではアコギをつま弾きながら、ピーター・ドハーティーのように酔いどれ詩人ぶりを見せたりと、とにかく様々なスタイルを乗りこなし、アルバムの中で縦横無尽に暴れている。
個人的に一番好きなのは4曲目のThe Man's Machine。ウッドベースのジャジーなイントロからジェイミーのラップ、そして壮大なメロディーへと展開していく様は本当に美しい。くだを巻いてる酔っぱらいのごろつきが、ふと見上げた空の向こう。そこに広がるものが何なのか、想像力をかき立てるような曲だ。
あと7曲目のSpider's Web。「オバマなんてオサマ(ビンラディン)みたいだ」という強烈な歌詞と儚くメランコリックなメロディー。蜘蛛の巣に嵌っているのは俺だけか、それとも世界そのものが罠に落ちているのかと自問自答している。きっと同世代の八方ふさがりな状況にある人には、相当にリアルな情景を描いていると思う。
アルバムを通して聴くと、やや振り回された感が残るが、間違いなく音楽センスや才能の片鱗を感じるし、まだまだ原石に近いところにあるのも分かる。「まとめる」のではなく、「研ぎ澄ます」。そこをクリアできたら、とてつもないものを作り上げることができるだろう。
おすすめ度★★★★(06/03/10)