Tokyo7/Moonriders | Surf’s-Up

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 デビューして33年目を迎えるムーンライダースの新作。テーマはTokyo。それぞれのメンバーがソロで活躍し、慶一さんはつい先日曽我部恵一とソロアルバムを完成させたばかり。どう考えても、この年代のミュージシャンからしたら恐ろしい仕事の量だ。


 しかし、このバンドの強みは全員が曲を書けること。そして生み出される楽曲の質が高いこと。それそれのソングライターの個性が明確なんだけど、不思議と統一感がある。そういう武器をこのアルバムでもいかんなく発揮している。


 今作であるが、個人的にはムーンライダースについてあまり詳しくないんだけど、ここまで親しみやすいメロディーが続く作品はなかなか無かったのではないかと思う。


 序盤はポップな楽曲でグイグイと押しまくる。唯一のかしぶち作品「タブラ・ラサ」でアルバムは始まる。サブタイトルにwhen the rock was youngとあるようにロックの初期衝動的な力を印象的な言葉で表現した曲。「SO RE ZO RE」はスカッとするギターのイントロ1発で始まるロックな1曲。「 I hate you and I love you」は前半はグルーヴィーなロックで、後半は牧歌的な展開を見せる曲。好き、嫌いの裏表をわかりやすい言葉で抽象的に描くという彼ららしい世界観を持った曲だ。


 良明作品「笑門来福?」は、彼らしいオリエンタルでにぎやかな曲。ライブでやるとすごく盛り上がること間違いないだろう。「Rainbow Zombie Man」は博文作品。ヴォーカルも博文さん。ブルージーテイストな1曲だ。ムーンライダースの曲にはこういう土臭い感じのものも多いが、メロディーがポップな分従来のものより軽く感じる。「Small Box」は慶一さん作のスローナンバー。空の小さな箱をモチーフにサイケデリックなイマジネーションが箱からあふれ出していくような映像が浮かぶ、そんな曲だ。



「ケンタウルスの海」は、イントロのアコギがため息を誘うほど美しい。くじらさんの作品で、ヴォーカルも務めている。シンプルでフォーキーながら、グロッケンシュピールやユーフォニウムも入り、時折シンフォニックな展開を見せる。「むすんでひらいて手を打とう」はいきなりのホイッスルとイントロのメロディー展開でもう良明さんの作品だと分かってしまうポップナンバー。「夕暮れのUFO、明け方のJET、真昼のバタフライ」はタイトルからしてもろムーンライダースな1曲。詞は慶一さんで曲は岡田さん。タイトルはサイケであるが、アルバムの中で一番タイトなロックナンバー。


 そして、ここからは速度を落とし、ラストに向かう3曲「本当におしまいの話」「パラダイスあたりの信号で」「旅のYokan」ではディープなムーンライダース・ワールドを見せる。おそらく、コアなファンはこういう音を求めているんだろうなという、奥の深い世界を感じる3曲である。


 ラストの「6つの来し方行く末」では6人が代わる代わるヴォーカルを取る。初めての試みらしいが、センチメンタルなメロディーと相まって、これを聴くといつも泣けてしまう。それぞれのメンバーが生まれた月とメンバーのイメージと重ね合わせた歌詞なんだけど、なんとも素敵なのだ。そして、6人がずるいくらいセンチメンタルなメロディーに乗せて歌う。ある意味意表を突くようなエンディング。それも彼ららしいんだけど。


 小難しい要素は少なく「わかりやすい」アルバムだと思う。メロディーがストレートに聞こえてくるし、作品全体を包むポップ感はこれまでになく開かれている。また、バンドのグルーヴ感を生かした曲が多いのも特徴だろう。ソロアルバムを作れる人間の集まりでありながら、がっちりスクラムが組まれている。


33年目にしてこの余裕、この風格、唯一無二の熱きロックバンドです。



おすすめ度★★★★☆(03/09/09)