Saturdays=Youth/M83 | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
 フランスのプロデューサー、アンソニー・ゴンザレスのソロ・プロジェクト。帯では「シューゲイザー・エレクトロ」を確立した一人と紹介されている。ただ、キャッチコピーにある「ハート・ウォーミングな青春物語」という言葉はこのアルバムを語るにはいささか平坦だと思う。


 確かにこのアルバムの持つロマンチシズムは青春時代に抱く幻想的な世界とリンクする部分が大いにあると思う。しかし、描かれた世界は決して陽的な物だけではなく、むしろ人間の「陰」にスポットを当てた物が多い。


 サウンド面では、シンセの使い方、メロディーの展開、ヴォーカルのテイストなど随所に80年代っぽさが伺える。時々そこにギターも入るが、コンプの効かせ具合がたまらなく80S'だったりする。「なんとなくかっこいいから」という発想ではなく、「この音でなければならない」という必然性を感じるようなところがいい。80S'という時代にある享楽性とクールさを表現する手法の一つとして、このスタイルがあるという感じがするのだ。


 そして、音響系からアンビエント、そしてテクノポップまで非常に多岐にわたった内容の曲が多く、思ったより「シューゲイザー」の影響は薄いと感じる。確かにKim&Jessieはシューゲイザー的な音渦の中に儚い歌が浮かび上がるという、もろなナンバーであるが、むしろシンセを基調とした幅広い音楽性をここで発揮している。例えばUp!はケイト・ブッシュのようなハイトーンの郷愁を誘うメロウナンバー。このアルバムの中でも出色の出来を誇るナンバーだ。


 惜しむらくは全ての曲が平均点以上であるものの、もう一つ突き抜ける力を持ったナンバーがないところ。歌詞も、もう一つインパクトに欠ける印象がある。80S'の音楽性そのものが、あえて過激な描写を避け、心地よさを追求したようなところがあるゆえに、そこは仕方がないのかもしれないが。



おすすめ度★★★☆(22/07/09)