解散したGrandaddyのフロントマン、ジェイソン・リトルのファースト・ソロ・アルバム。Grandaddyは、親しみやすいメロディーに割とチープな音を塗り重ねることで、独特のソフトサイケな世界を作り出すという、なかなか個性的なバンドだった。個人的には彼らのセカンド「Sophtware Slump」が大好きなのだが、それ以降は割と音が厚くなり、シンプルさから遠くなった分、もう一つ良さを感じられずにいたところがあった。悪くはないんだけど、どんどん普通になっちゃったなと。しかし、2006にJust Like The Family Catをリリースし、それがラストアルバムとなった。
そして2009、ついにジェイソンのソロ作が完成。一言で言うと「よくぞ、やってくれました!」。Sophtware Slump以来の傑作が届けられた。
まず何がうれしいって、音作りがシンプルになっているところである。厚くするのではなく、必要最低限のシンセや効果音を巧みに使い、それがあの儚いメロディーとメランコリックな相乗効果をもたらしている。あえての隙間の多さ。決してアコースティックな作りではないけど、どれだけシンセが入っても決して重くならず、むしろ宇宙レベルでの広がりを見せるようになるのだ。空間に漂っているような感触と言えばいいだろうか。とにかく身を任せるとひたすら心地よい。Spiritualizedのようにハードではないけれど、まさに「宇宙遊泳」。
ジェイソンの歌もGrandaddy時代よりもいいんじゃないかというくらい、枯れた味わいをこれでもかと出している。シンプルなバックトラックの中にそこはかとなく響く歌声は、とても優しい。歌い方が変わったわけではないけど、以前にあった聞き手との距離を置いたようなところが、今作では見られない。聞き手を見据えているというか、妄想的に考えるとジェイソンもついに地に足がついたのかなという感じがする。
決して派手なアルバムではないし、巨大なセールスをあげるようなこともないだろう。だけど、心にじんわりとしみこむような素晴らしいアルバムであることに間違いはない。この音にただただ身を任せてみてほしい。
おすすめ度★★★★☆(16/07/09)