Wilcoに関してはどこかつかみ所のないバンドというイメージが自分にはあって、Yankee Hotel FoxtrotからSky Blue Skyまで結構聴いてはいるのだが、言葉で説明しようとすると実にその魅力を語るのは難しい。実験的、先鋭的なところもあるが古典的・伝統的な部分が根底にはあってそこがどういうバランスで成り立っているのか、なかなか見えないのである。
で、今作であるが、前作では抑えめだったキャッチーさが、ここでは全開となっている。ここまで開かれたWilcoは見たことがない。親しみやすい、と言う言葉さえ浮かんでくるほど、馴染み深いメロディーがあふれている。
バンド名を称したオープニングWilco(the song)は挨拶代わりの骨太なバンドサウンド。サビで「Wilco,Wilco」と歌われるのはなんだか新鮮。こういういわゆる王道的なアメリカンロックを感じさせるナンバーが多いのが、このアルバムの特徴だろう。例えば、You Never Knowはピアノと軽快なリズムに乗ってドライブする、もろ王道のアメリカン・ロック。サビのコーラスも心地よく、あまりのキャッチーさに最初はカバーかと思ったほどだ。
そして、前作ばりの美しいスローナンバーも健在。Deeper Downの柔らかなメロディーは思わず目をつぶって聴きたくなるくらい美しい。Country Disappearedではヘヴィーなテーマをシンプルなサウンドで歌い上げる。ジェフ・トゥイーディーの表現力の豊かさを感じさせる1曲である。
ただ、その中でBull Black NovaとEverlasting Everythingの2曲だけが少し異彩を放っている。ピアノの単調なリフと、エキセントリックに展開していくギターとの絡みが絶妙なBull Black Novaは経験値の高さが感じられる1曲。そして、アルバムのエンディングを飾るEverlasting Everythingは重厚なテイストを持った曲。最後のギターの残響が終わりよりも、むしろ何かの始まりを感じさせる。
というわけで、やはりwilcoはどこか一筋縄いかないロックバンドである。ここまで開放的でありながら、逆に正体がつかみにくくなっている。ただ言えるのは、単純にレイドバックしたアメリカン・ロックバンドではないということだろう。飄々とした佇まいのジャケットのラクダくんは、正体を知っているのだろうか?
おすすめ度★★★★☆(05/07/09)