くるりのニューアルバム。初回限定盤には「謎の板」なるものが封入されていて、それを使った謎解きは今も続いている。くるりと僕たちをつなぐストーリーなのらしいが。
アルバムごとに明確なスタイルを持っているくるりであるが、今回は「ルーツロック」という今まででは一番地味なフォーマット。ギター・ベース・ドラムのシンプルな構成に時々メロウなピアノが重なる。
R&Bテイストが強く、前作のような壮大さや流麗さとは違ったところで鳴っている感じ。1stあたりのフォーキーなテイストも垣間見える。とにかく、これまでで一番シンプルなサウンドと言っていいだろう。
しかしながら、内容の充実度は「さすがくるり」といった感じで、骨太なブルースから軽快なポップまで、しっかり「らしさ」を演出しながら味わいのある作品に仕上げている。
個人的には「太陽のブルース」「デルタ」といったしみじみとしたスローナンバーが秀逸だと思う。「夜汽車」「魂のゆくえ」での肩の力が抜けた感じも好きだ。ドライブ感のあるダイナミックなナンバー「Natuno」も素晴らしい。サビの即効性に頼らない、じわりと広がっていく柔らかな曲が多い。そして、聴くたびに味わいが変わっていくのがこのアルバムの魅力でもある。
驚くべきは、シンプルながらも力強いバンドサウンドだろう。もはやメンバーは2人だが、今までで演奏に一番グルーヴを感じる。サポートメンバーとの演奏であるが、まさに「ルーツロック」的な阿吽の呼吸を感じる。
つまりはそこが、このアルバムの聴かせどころだろう。前作でクラシックの中に普遍性を見つけ、自分たちの音楽を解放しようとしたが、そこで得た自信がこの素直なバンドサウンドへ結実したのだろう。派手さも奇も衒わない。それゆえ渋いという感想が多いが、確かにそういえるかもしれない。それでも、何度も聴きたくなるだけの吸引力を持ったアルバムである。個人的にはこれまでで一番好きなアルバム。
おすすめ度★★★★☆(20/06/09)