Manic Street Preachersの9th。前作「Send Away The Tigers」はセールス的にも大きな成功を収め、彼らの復活的作品としても大きな評価を得た。
マニックスというと、意外とイメージの定まらないバンドだという印象を持っている。僕にとってのマニックスとは未だに「Motown Junk」であり、「4REAL」なのだが、そういうリスナーは今やごくわずかだろう。マニックスがシーンの中で大きな存在となり、国民的バンドとなったのはリッチー失踪後の「Everything Must Go」以降であり、今のリスナーには「A Design For Life」のようなドラマチックなロックを歌うバンドみたいなイメージの方が強いだろう。
しかしながら、彼らの今回の挑戦は「リッチー・エドワーズが残した詞を使って「Holy Bible」の続編となるアルバム」を作ることだった。マニックスのアルバムの中で最もパンキッシュであり、人を寄せ付けないようなヒリヒリとしたテンションを持った「Holy Bible」。リッチーの突然の失踪により、図らずも「悲劇のバンド」として国民的人気を得てしまった彼らにとって、その続編を作るということはやはり相当の時間が必要だったのだろう。
プロデューサーはスティーヴ・アルビニ。当然ながらアナログ・レコーディング。そういった環境からすでに、バンドとして妥協せず徹底的にソリッドな音作りを目指しているのがわかる。
ただ、個人的には続編的アルバムと言うよりは、今の彼らの姿が反映されたロック・アルバムというほうがしっくりくる。これまでの経験値、そして抱えてきた痛み、そういったものがサウンドからにじみ出てくるし、リッチーの詞も今の彼らが歌うことを予見していたかのような青さと成熟さ両面兼ね備えたようなものなのだ。
そしてサウンドの方も前作よりはぐっとラウドでエッジの立ったものへとなってはいるが、「Holy Bible」よりはメロウな仕上がりとなっている。ボトムは図太く筋肉質な感じでありながら、時折のぞく繊細さも当時の怒れる若者には出せないものである。アルビニ・プロデュース作品の中でもここまで柔らかな要素のあるアルバムはそうないだろう。
全体的に言うと一点が突き抜けたようなアルバムではなく、総合的に今の良さを組み上げていったようなアルバムだと思う。ベタベタすぎて時折気恥ずかしくなるようなストリングスやポップさが後退したのは個人的にはうれしいし、リッチーの詞にインスパイアされるがままに作ったようなラフさもすごく良いと思う。ジェームスのギターが僕は好きなんだけど、久しぶりに弾きまくっているし、ニッキーの中性的ヴォーカルが優しげに終わりを告げる最終曲は聴き終えた後に格別な余韻を与えてくれる。
惜しむらくは、強烈にアンセミックなナンバーがあるともっと良かったような気がする所。曲によってはもっともっと凄みを効かせられそうにも見えた。しかし、とにもかくにも今の彼らの理想型ともいえる素晴らしいロックアルバム。
おすすめ度★★★★(31/05/09)