とにもかくにも今をときめくお騒がせ男、放蕩息子、セックスシンボル・・・と極めてロックらしい言葉がいくつでも浮かんでくるピーター・ドハーティーの1stソロ。リバにせよベビシャンにせよ、とにかくこの男の才能は誰もが認めるところなのであるが、個人的には僕はあんまりピーターのことが好きではなかった。
リバのアルバムはどちらも好きだし、カールのDirty Pretty Thingsも1stはリバに負けないくらい愛聴していたが、どうもベビシャンだけは興味が湧かなかった。理由は、ドラッグで破滅的なイメージにすごく拒否反応を覚えてしまうからだ。こればかりはうまく説明が付かない。自分が好んで聴いてきたロックの中にも、ドラッグの影響を受けたものは間違いなくあるはずで、ブライアン・ウィルソンやビートルズさえそうなのだから、なぜピーターだけ受け付けないのか、自分の考えは可笑しくて理屈に合わないことはわかる。生理的にダメだったと言うことなのかもしれない。
それでも、時々You Tubeでアコギをかき鳴らしながら歌うピーターを観ることがあり、そのかっこよさといったらもう半端無い。よれよれで、決して清潔感があるとはいえない身なりであっても、歌っているときはめちゃめちゃかっこいい。そして、ピーターのアコギの音はすごくきれいだと思う。何というか陳腐な言い方だが、ピュアな音色。プレイしているときに全てから解放されているような美しい響きなのだ。
こういうのを天才というんだろう。音楽の才能はもちろんのこと、パフォーマンス一発で魅了してしまう魔力。一時期迷走していたデヴィット・ボウイも(Tin Machineというバンドをしていた頃)、アコギ一本でSpace Oddityをやるだけで最高にかっこいいと思ったことがあった。
と。少々前置きが長くなったが、このアルバムはつまりそういう魅力にあふれたものになっている。アコースティックな弾き語り形式を主体にしたピーターの魅力全開のアルバムだと思う。 ピーター独特のメロディーセンスはここでも健在で、正直聴いたことのあるような曲が無いわけではないが、不思議と新鮮に聞こえる。ライナーノーツを観ると、グレアム・コクソンがほぼ全編にわたってギターで参加しているとのこと。グレアムのギターは主張しすぎず、ピーターの描き出す世界にうまくアクセントをつけている。
一見無造作に見えて、しっかりまとめ上げられているのはスティーヴン・ストリートの功績だろう。シングルLast Of The English Rosesの無国籍テイストや、歌謡曲なA Little Death Around The Eyes、R&BテイストのPalace Of Boneといった楽曲の個性を殺すことなくジグソーパズルのように「そこにある必然性」を持たせている。
というわけで、かなり力の入ったソロというか、ベビシャンよりもずっとずっとピーターの凄みを感じられるアルバムだと思う。聴けば聴くほど味わい深い。
おすすめ度★★★★(18/03/09)