
前々作にして復活作である「You Are The Quarry」のプロデューサー、ジェリー・フィンを再び迎えて作られた今作は、とにかくテンポの良さと1曲1曲が簡潔にまとめられていて、全体的な勢いを感じる。そして、相変わらず歌メロは抜群の切れ味と美しさを湛えている。
1曲目、Something is Squeezing My Skull からアクセル全開のモリッシー節。前作の壮大なオーケストレーションを基調としたサウンドとは打って変わって、タイトでポップなサウンド。パンキッシュとまではいかないが、かなり攻撃的な展開を見せる曲である。
特筆すべきは、次の曲Mama,Lay Softry On The RiverbedやWhen Last I Spoike To Carolなどで聴ける無国籍なテイストだ。まるで西部劇のサントラのような乾いた質感を持った曲であるが、アルバムの中でいいクッションとなっている。
ギターを主体とした曲が多く、切れの良いカッティングはメロディーとの相性も抜群だ。非常に若返った感じで、抜けの良さを感じる。前作の荘厳な感じもいいが、基本的にモリッシーはこういうある種の「刺々しさ」があったほうがいいんじゃないかと思う。3曲目Black Cloudではなんと、あのJeff Beckが参加。これまた、若々しいプレイを見せている。
そして、いつにも増してモリッシーのヴォーカルは伸びやかだ。シングルカットされたI'm Throwing My Arms Around Parisが最高だ。このメランコリックなメロディーに、それ以上にメランコリックなモリッシーの歌。それでいて歌詞の内容は「この両の手で僕は抱きしめよう/パリの町を、なぜならば/誰一人僕の愛を望んでいないから」という、たとえようもない残酷なものだ。
しかしながら続くAll You Need Is Meではこう歌う「おまえにとって、僕こそがすべて」と。闇雲なまでの確信。
「どっちやねん!」と思うかもしれないが、どっちも紛れもないモリッシーなのだ。そして、それは僕たちのことでもある。希望も絶望も確かにそこにある。でも、困ってしまうのは今の現状をどちらかに決めてしまおうとすることである。そして、そこに「正しさ」という重石を置きたがる。それが他人なんだから、尚更やっかいだ。
何がYesで何がNoなのか、こんなことはわかりようもないことなのだ。モリッシーもきっとそうなのである。絶望の代名詞のような「死」だって、「ダブルデッカーが突っ込んできても、君のそばで死ねたら幸せ」となるのだ。
目の前にあるものが、希望だろうが絶望だろうが、優しさだろうが罠だろうが、彼は残酷なくらいありのままに歌うだけなのだ。同調も何も求めずに。こうして、白でも黒でもない歌が多くのロックファンの心をつかんできたのだろう。
僕たちは決してコインの裏表で決まるような生き物ではない。モリッシーの歌は変わらずにそのことだけを歌い続けている。この音楽を聴いて、何を感じたって構わない、そんなロックが他にあるだろうか?
おすすめ度★★★★☆(10/03/09)