UKはブライトンから登場の若手シンガーソングライター、Paul Steel の1st。「弱冠22歳の”サイケデリック・ポップ・エキスパート”」という若干恥ずかしいキャッチコピーなのだが、まぁそんなに外れてはいない。サイケデリックと言うよりは、引き出しを多く持ったポップ職人という感じ。昨年のFuji Rockにも出演し、このアルバムも順調に発表されるかと思いきや、メジャー契約を解消したためしばらくお蔵入りになっていたらしい。
それがこうやって、日本でようやく日の目を見ることになった。そもそも、これだけの作品が出せない状況って、なんか残念だ。
本国であまり日の目を見なくても、このアルバムには確かな魅力がある。基本的には彼が曲を書き、歌い、演奏しているが、ミックスはあのトニー・ホッファーだったり、アレンジャーとしてBeckの実父、デヴィット・キャンベルが参加している。そういうがっちりしたバックグラウンドの中、彼のポップセンスは若き迸りを見せている。
ビーチ・ボーイズ風のコーラスワークが素敵な「I Will You Make Disappear」、Fratellisばりの疾走ギターポップ「Your Loss」、ひねくれたメロディーラインにチープな演奏がどこかスーファリを彷彿とさせる「Crossed The Line」、そしてラストを飾る壮大なナンバー「Cry Away」など、実にバラエティーに富んでいる。自称「ただの音楽オタク」と言うだけあって、引き出しが本当に豊富。もう少し整理したらどうかと思うところがないわけではないが、自分の中にある表現欲求の赴くままに作品を作る姿勢には好感が持てる。また、どの曲も病的に夢見がちなところもいい。なんと言っても、素晴らしいポップが生まれる前提として「妄想」は欠かせないから。
でも、個人的なハイライトはオープニング「In A Coma」。とにかく良い。めくるめく展開を見せるメロディーも申し分ないが、そこに歌詞の切なさが加わり、聴いていると胸がざわざわする。ポップソングの定義が「どうしようもないもどかしさを表現したもの」としたら、この曲は完璧なポップソングだと思う。この1曲だけでも聴いてやってはくれないでしょうか?
おすすめ度★★★★(23/11/08)
http://www.myspace.com/paulsteel