モンハン戦機『ミッション01 新たなる仲間・出撃』
ベルと桜がとある一室に入ると、中にいた数名の人物が、ガタリと椅子から立ち上がり敬礼をする。
男が三人に女が一人、いずれも若い感じである。ベルは軽く手を上げて敬礼をおろさせ、四人の前に立って座らせる、桜は部屋の隅で壁にもたれかかっている。
「ようこそ、俺達の部隊SupremeCrew(以後SC)に、俺は隊長のベル=スティング、そこにいるのは副隊長の笹倉桜だ。以後よろしく頼む」
それだけいってからベルは壁際に移動、桜は交代するように四人の前に移動し、四人を一瞥する。
「今も紹介があったけど、私が副隊長の桜よ。副隊長とか言われるとくすぐったいから、気軽に名前で呼んでもらっても構わないから」
自分達は軍人であるが、各隊の規律などは軍の規律が少しあるだけで、そのほとんどはその隊で独自のものが使われている。HRLAは軍であると同時に民間企業とかわらないような者である、モンスター退治にでかけなければお金は儲からない、ただいるだけで給料がふりこまれるほど甘くはないのだ。
「それじゃあ一人ずつ自己紹介していって、隊長は皆の資料が言ってると思うけど、私はそういうのは見ないから知らないのよ、だからちゃんと名前と歳と趣味と意気込みくらいね」
軍人とはあまりにもかけ離れている歳相応の明るい笑顔で桜は椅子に腰をおろし、ピッと一番端にいる少年を指差す、アナタから、そういう意味合いである。そして少年もちゃんとその意味を汲み取って立ち上がる。
薄い水色の短髪、スラッとした体躯で軍人というよりかはモデルのような少年だ。
「レイ=セン(以後レイセン)です。歳は15でロシア出身です。趣味は特になくて……士官学校を出たばかりなので、皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります…」
キョロキョロと視線を走らせてちょっとオドオドした感じはあるも、レイセンは椅子に座りなおす。そして続きにその隣の少年が立ち上がる、濃い茶髪で角刈りでガッシリとした筋骨隆々な体格をしている。
「猫沢総司(ねこさわ そうじ(以後はねこ))です、歳は21、アジア地区日本出身、趣味は酒です。以後宜しくお願いします」
先ほどのレイセンとは違って、周囲への眼力も強ければ言葉に込められる意志も迫力がある。ねこが座るとさらにその横の少年が立ち上がった。赤銅色のロン毛に小麦色の肌、細身だがしっかりとしまった体だ。
「俺は飛・朝里(ひ・ちょうり(以後ヒチョリ))。歳は18、中国出身ッス。とりあえず桜さん、メルアド交換しませんか?」
「残念ね、アタシ男には仕事用のアドレスしか教えないことにしてるのよ」
桜の即答に肩をすくめてヒチョリは椅子に座り、最後に唯一の女…まだ少女が立ち上がる。まだ幼い感じで背中の半ばまである白銀に煌く髪に純雪のような白い肌。まるで人形のような見た目だが、碧眼の瞳にはしっかりと芯の通った意思を桜は感じた。
「ジン=パーシヴァルです。19で北欧地区出身、趣味はありません、一日でも平和な世界を取り戻すために尽力する所存であります」
場所が場所なら嘲笑であったり酒の肴にされそうに台詞だが、この場でそれをする者はいなかった。むしろ桜にとっては面白いと感じた。
「それじゃあ最後に私ね」
と、ノホホンとした感じで桜が立ち上がって四人の前に立つ。
「改めて言うけど、笹倉桜よ。24でねこ動揺に日本出身、趣味は色々よ、お風呂も好きだし、甘い物も大好き、何か質問はあるかしら~?」
桜が言うと、すぐにヒチョリがハイハーイと立ち上がって手をあげる。
「はい、ヒチョ君」
「先生の3サイズ教えてください」
何か不思議な連帯感が発生している、とても今日初対面同士とは思えないテンポのよいコントワールドが成立してしまっている。
「んっふふ~、上からねぇ、86のC、54、89よ。他にもね~…」
「桜、その変にして次にいくぞ」
と、流石にこのままでは収集がつかなくなるのでベルが桜と半ば強引に交代する。ヒチョリもスッと椅子に座りなおす
「今日はこのまま戦闘訓練を兼ねて出撃する、標的は怪鳥イャンクック、今より一時間の0900時より出撃する、それまでに格納庫に集合すること、以上だ」
端的にベルでいい、敬礼して部屋を出て行く。それに続くようにそそくさと出て行くジン、残った新人三人は座談に入ろうとしている。その中で桜はでていったジンにとても興味をもって部屋を出て行った。
「ジンちゃん」
廊下で彼女を見かけて呼び止める。
「何か御用でしょうか?笹倉副隊長」
苗字でしかも職位つきの呼び方ですこしきつめだ。明らかに桜に声をかけられて快く思っている節はない。
「二人しかいない女の子なんだから、仲良くしましょうよ。時間があるしお茶でもどうかしら、奢ってあげるわよ?」
「それは副隊長としてのご命令でしょうか?」
表情をかえず、ジンは淡々と言い返す。流石の桜も彼女から発せられる拒絶に近い迫力にいいどよんでしまう。
「べ、別にそういうわけじゃないけど」
「でしたら、私は失礼させて頂きます」
それだけ言ってジンは去ってしまう。桜は困った顔をして頬をポリポリとかいた。
一時間という時間は思いのほか短い、あっというまに時間が迫り、格納庫には各自の姿があった。
「イャンクックねぇ、いくら実力を知りたいといっても簡単すぎない?」
パイロットスーツに着替えてベンチに座る桜が、横でハンターの最終チェックをしているベルに問いかける。
ちなみにパイロットスーツというのは、スキューバダイビング等に使われるような首から下をほぼ被ってしまうドライスーツのようなもので、手首につけられたブレスレットは操縦者の体温や血圧を自動測定し記録するツール、足は外に出る場合を想定して登山用などのごついブーツである。そしていくら高性能のスーツであっても、体のライン(特に男性は股間、女性は胸部)がピッチリ見えすぎることがあってあまり人気はない、ただ着ていると着ていないでは圧倒的に生存率が違うため大体のパイロットは着ている。
「程よい任務がこれしかなかったんだ、他のクエストはヒプノックなイャンガルルガでは少し手間がかかる。これなら燃料と弾薬をさしひいて報酬はトントン、演習と呼ぶにはちょうどいいだろう」
ハンターのチェックが終了し、ベルはコンソールとハンターをつなぐケーブルを外して去って行く、機体搬入のためにクレーンの操作へいったのだろう。桜はこの場に全員いることを確認すると、先ほどまでの明るい笑顔をふりはらって真面目な顔つきで立ち上がる。
「新人組集合っ!!!!」
突然の力が入って大声に、今まで談笑していた者も、ベル同様にハンターのチェックを行っていたジンも桜の前に並ぶ。
「これが私達の初任務となる。いいか、相手がイャンクックだからといって手を抜くことなんて絶対にしないこと、一瞬の注意が自分の死、仲間の命を危険に晒してしまうことを絶対に忘れるなっ!!」
「ヒチョリ、任務場所の地形データの更新と現在の天候は調べた?」
「ま…まだです…」
「5分ですませなさいっ!!」
「は、はいっ!!」
「ねこ、貴方の仕事は何っ!?」
「は、自分は迎撃後衛(ガンインターセプト)、前衛を突破したモンスター、撃ちもらしを撃破することでありますっ!!」
「同時に隊長機の僚機であることを忘れるなっ!!」
「サー・イエッサーッ!!」
「レイセンッ!!」
「は…はいっ!?」
「股間を隠すなっ!!」
「りょ…了解しましたっ!!」
桜に怒鳴られ、レイセンは顔を真っ赤に染めながらも腰に巻いていたタオルを投げ捨てる。
「ジンッ!!」
「はいっ!!」
「アンタは突撃前衛(ストームバンガード)、僚機の強襲前衛(ストライクバンガード)はアタシが入るけど、それでも一番危険な位置なのは理解でるわね?」
「はいっ!!」
「私達の部隊の鉄則よ、『死ぬな、生きろ』っ!!」
「はいっ!!」
「出撃まで時間がないわよ、急いで確実に準備をしなさいっ!!」
桜の檄を聞きながらも、クレーンを使って自分と桜の機体を移動用のトレーラーに積み込みんでいるベルは苦笑していた。
「俺よりよっぽど隊長らしいことしやがって…」
出撃準備が整い、SCは任務が行われる密林地帯へと向かうのであった。
モンハン戦機『ミッション00 悲しみの過去』
『私は走る、返り血をあびても、行く手を阻む敵は全て蹴散らし、砕き……貫き……全てを破壊して突き進むだけだった…』
「キャアアッ……!!」
一瞬の浮遊感ののちに訪れる激しい衝撃、背中を強打した痛みに咳き込みながらも、『笹倉 桜』はすぐ操縦桿を握り直す。
「早く…早く立ち上がってよ…」
苛立ちながら桜は操縦桿をガチャガチャする。
桜は生身ではなかった、全長6m弱の機械鎧『ハンター』の中にいた。
ここは地球であっても、今のような平和な世の中とはほぼ無縁の物だった。
西暦はおそらく2800年頃、季節は肌で感じることはできても、この世界はもう年代を数えている余裕はなかった。
今より200年程前、突如として世界の各地に発生した獣、古代の恐竜のようなもの、神話に登場するようなモンスター、草食ではあるが巨大すぎる獣、天空、大地、深海を好き勝手にかけまわり、当時の人知を超えた破壊力に、世界人口の約半分がわずか半年にして減少、各国も対抗策を講じるも、わけがわからない相手に徒労と終わることも多く、果てには核兵器までもを使用したが、敵の一部しか壊滅することはできず、また汚染された大地であっても奴らは平気な顔をしていた。
結果としてたどり着いた案が、最も原始的である直接攻撃によって倒すことであった。
ここにきて、人類は国、人種、宗教を全て超えて人類生存軍『HRLA』(ハラリア)が結成されのは実に皮肉なことであった。
正体不明の怪物は『モンスター』と呼称され、平均なサイズとして約15mの怪物に対抗するために作られたのハンターと命名された一人乗りロボットだった。
高速で動きまわり遅い来るモンスターを避けるためにジュラルミンや、スペースシャトルの外壁材料にもなっているチタンなどの合金素材で全身が覆われ、人間はボディの部分に背中より乗り込む、コクピットは計器に操縦桿、後は折り畳み式のキーボードで立ったまま腰と肩でX字になるようベルトがつけられ、操縦はセグウェイの原理を応用して体重移動などが基本、細かい動きや所持している武器兵装を使用は二本の操縦桿に付属している6つのボタンで行われる。
「ガァアアアアアアッ!!!!」
外界から轟いた方向が桜の耳に突き刺さる。すぐに顔をあげてモニターを確認すると、自分の上空に一体のモンスターがいることに気がつく。
赤い体、巨大な翼も口より吐き出す真紅の炎。獰猛な鋭い瞳が桜を射抜き、口から巨大な火球が発射される。
『桜ぁっ!!』
桜へと迫り来る火球、直撃から連想される死を覚悟して目を閉じる。
『諦めるなっ!!』
ヘッドセットを通して自分の耳に入る男の声、桜がゆっくり目を開けると、自分の前に一体のハンターが立っている。
火球を受けて発生した黒煙を手にしたハンターの身の丈はありそうな巨大な剣、それを盾のようにして火球を受け止め、またその大剣の一薙ぎは周囲の黒煙を吹き飛ばす。
褐色にカラーリングされ、指揮官機を示す頭部の角のハンター。桜達の部隊長である『ノント・ロッポ』少尉の機体だった。
『非常事態が発生している。この洞窟の先に金色のレイアが発見された』
「そんな、ここにはノーマルなレウスしかいないって…!?」
『だから非常事態なんだ、ベルはもうBCに撤退している、お前も戻れっ、こいつの注意は俺が引いておく!!』
「りょ…了解っ!!」
桜は直ぐにハンターを反転させてこの場を撤退しようとする。が、数10メートル進んだところで左脚部が小さな爆発を起こし、桜のハンターは前につんのめるように地面へ倒れた。
『桜っ!?』
それに気がついたノントはすぐに桜をサポートしようと向かうが、それが一瞬の隙を生んでしまったのか、上空より迫り来るリオレウスの尻尾がノントのハンターを直撃、ノントのハンターは高い崖から落下してしまった。
「隊長………たいちょおおおおおおおおおおっ!!!!」
ヘッドセットのマイクが桜がノントと通信をとろうとするが、ノントの声を聞けることは二度となかった。
その後、桜とノントが戻らないことを気にかけたもう一人の隊員であるベルがかけつけたことにより、何とか桜は難を逃れたものの、ノントはMIA(Missing In Action(作戦行動中行方不明))とされた。
「アタシのっ……アタシのせいだっ!!」
作戦指令本部に帰還後、ベルは基地司令官に今回の報告、残された桜はハンターから降り、しばらくは平静をたもてていた、しかし人は静かな空間程色々な考え事をしてしまう、隊長を失ってしまったこと、その責任の発端の一部は自分にある、守れなかったこと、戦えなかったこと、悔恨の念に苛まれ、苛立ちが全身を駆け回り、行き場のなく込み上げるとめどない怒りに拳を握り、鉄の壁を全力で殴りつける。
鋼鉄に力が衝突して格納庫に響き渡る音、桜の手から痛みが広がっていくが、そんなものはおかまいなしに桜はもう数発壁を殴りつける。
「隊長……うっ…ううっ……」
頬は伝うのは涙、両膝をついて崩れ落ち、桜はその場で号泣するのだった。
「んっ……」
そこで桜の夢は終わった。ぼんやりと目をあけ、硬いベッドから体を起こして目をこすると、自分の手に大粒の涙が乗っている。
「アレからもう100日もたってるのに…」
早朝の日課となっている日数のみを数える簡易カレンダーのカウンターを一つ足し、目をこすって桜は立ち上がる。
背中の半ばまで流れる金髪の髪、濃い茶色の釣り上がった豹も思わせる瞳タンクトップとショートパンツのままバスルームへと入る。
「ふぅ…」
最初に冷たい水が流れるが、桜はそれにあえて頭からあびる。やがて暖かい湯が流れて全身の固まった筋肉をほぐしていく、それだけでバスルームから出て、鏡に映る自分を見る。
「しっかりしなさい…桜」
鏡の自分にむかって言い聞かせてバスルームから出る。
「よおっ…」
バスルームからでるやいなや、桜の耳に入ってきたのは聞きなれた男の声だった。
褐色の肌でがっしりとした体格、茶髪のショートカットはオールバックにあげ、タンクトップにアーミーパンツ姿、同隊所属の『ベル・スティング』がそこにいた。
「なんでアンタがいんの…?」
「今日だろ、新隊員がくるの、お前朝弱いから起こしにきた」
冷蔵庫から牛乳瓶を取り出して一気に飲み干してから桜と顔を背ける。
「それとだな…いくら自室だからって、鍵もかけずに全裸で歩き回るものじゃないぞ…」
コホン、と軽く咳払いをしてからベルが告げる。同時に桜もハッと気がつく、今まで自分はシャワーをあびていた、身に着けているのはバスタオル一枚、上は辛うじて隠せていても、下は完全にボトムレスだった。
「み…みるなぁあああっ!!」
健康的でしなやかなハイキックが、ベルの後頭部をとらえ、ベルは冷蔵庫に顔面から突っ込むのだった。
