主治医の怠慢で縦割り行政の迷路へ


 前の2つのブログ記事のつづき。
 すぐ前のブログ記事では、「患者本人と家族の意思疎通が大切だが、そのための家族の負担は重い」ということを書いた。


 このため、精神科の主治医やソーシャルワーカーなど、患者本人と家族を支える仕組みが大切になってくる。

 昨年の八王子の事件については「 主治医はいったい何をしていたのか」と問いたい。

 主治医は法廷で、「家族の同意によって入院させた場合、三男は入院についてネガティブに考えると思った。警察主導の措置入院なら、本人の認識を変えるきっかけになると思った」と述べたと報じられている。
 この主張に納得できるだろうか?
 措置入院にしても、結局は家族など、周りの人間からの相談や通報がなければ警察は動かない。
 主治医の発言は他人任せの無責任なものとしか考えられない。
 結局、父親は警察に行っても、保健所でも「主治医と相談して」と言われるばかり。肝心の主治医がこの無責任さでは、どこに救いの手を伸ばせばよかったと言えるのだろう?
 無責任な主治医の判断で、縦割り行政の闇に入り込まざるをえなかった家族の姿が浮かび上がってはこないだろうか?

 ここで補足したいのは、精神科の入院は他科のそれとは若干異なるという点である。
 精神科の入院方法は精神保健福祉法によって、以下の3つに大別される。
(1) 患者本人の同意のもとで行う「任意入院」、
(2) 患者本人の同意がなくても、指定医が入院の必要性を認め、保護者の同意のもとに行う「医療保護入院」、
そして、
(3) 自傷他害の恐れがある場合で、知事の診察命令による2人の精神保健指定医が診察の結果、入院が必要と認められたとき知事の決定のもとで行う「措置入院」
という、大きく分けて3つの制度に分かれている。※1

 つまり、この事件では、本人の同意が得られにくかったようなので、「任意入院」は困難な選択肢だったかもしれない。ただ、父親の同意はあったのだから、「医療保護入院」は可能だったはずだ。親が入院を懇願するほどの窮状を生み出すまでに患者の症状が悪化していたは明らかなのだから、主治医が「医療保護入院」を決断することは十分に可能だったはずである。その点に目を向けず、「医療保護入院」より条件の厳しい「措置入院」を提案するというのは、まったくもって合点がいかない。患者と家族に不当な試練を強いるものだと言わざるをえない。

 百歩譲って、主治医が「医療保護入院」をしぶる理由として、精神病床の空きの問題がなかったかを考えてみたい。

 この家族が住んでいた八王子の精神科事情はひっ迫していたのだろうか? 暴力をふるう若い男性を放置せざるをえないほど、ベッドの数は足りていなかったのだろうか?
 データを確認すると、皮肉なことに、八王子の精神科病床数は4,218数で、2位の青梅市を大幅に上回る断トツの1位である。人口1万人あたりの病床数を見ても72.6で、都内2位となっている。※2

 八王子の精神科病床数は都内断トツの高さである。
 仮にベッド数が足りていなかったとしたら、他の都内の市や区で同じような事件が起きていないのはなぜだろう? 

<つづく>

参考サイト
※1 都立松沢病院サイトhttp://www.byouin.metro.tokyo.jp/matsuzawa/shinryou/nyuuin_syurui.html
※2 平成24年版『東京都の精神保健福祉の動向 多摩地域編』東京都立多摩総合精神保健福祉センターhttp://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tamasou/tamajouhou/doukou_tama.files/H24_TamanoDoukou.pdf